第283話 勝負の前の準備

猫高橋との魔法での戦闘訓練も行う。

魔法の訓練というのは繰り返し行うことで、

いつでもどこでも同じように魔法を繰り出すことができるようにする、

自分の脳へしっかりと魔法を使う行動を覚え込ませるということと、

繰り返し行うことでその威力を高めていくということ、

さらに言えば魔法の使用までの時間を短縮したり、

魔法を正確に敵へと誘導したりなど、

様々な技術の底上げを行なっていく。


この辺りの魔法の使用感については、

緑箋はすでにかなり高い能力を持っているので、

何にも問題がなく、

むしろ猫高橋を驚かせていたのだが、

やはり無駄のない動き、的確な出力、ぶれない魔法など、

洗練された魔法の使い方には一日の長がある。

これは遼香とはまた違った魔法の能力だと緑箋は思わされた。


強力な魔法を強固な想像力によって使用することは緑箋が得意としていることだが、

それはいついかなる時でも同じように使用するということは、

まだまだ緑箋には足りていない部分であった。

個人ではない多人数での戦闘において、

攻撃のムラというのは時に命取りになりかねない。

乱戦状態になれば尚のこと、

辺りを焼け野原にしてしまえばいいと言うことにならないからだ。


また一段高い段階の魔法の使用方法を猫高橋から学んでいき、

緑箋は魔法への理解を高めていった。

たくさんの人と魔法に関して話を聞き実践していくと言うのは、

とても有益なことだと、

改めて緑箋は思っていた。


もちろん遼香とは模擬戦で戦っている。

遠距離からの魔法の撃ち合い、

中距離での魔法の撃ち合いと駆け引き、

近距離での肉弾戦、

遼香はどの戦闘場面でも的確な攻撃を仕掛けてくる。

前に遼香と戦った時は、

すでに多くの生徒と戦っていた後でもあり、

緑箋にはある程度の情報があったことに対して、

遼香は緑箋の手の内が全くわからず、

少なくとも披露していたわけで、

あれが遼香の完全な実力ではないことは緑箋もわかっていた。

模擬戦では勝ち負けに拘らず、

二人の魔法に関する想像力の共有を行なっていくことで、

今までに培われてきた基本と、

二人の基本から外れた柔軟な思考力によって、

様々な魔法の使い方が開発されていった。

そうやってお互いの力を高めていくことが、

二人は楽しかったようだし、

遼香もかなりの力を出しても問題がない、

緑箋との模擬戦を毎日心待ちにしているようでもあった。


三人はいつの間にま訓練を行うのが日課のようになっていた。

そうこうしているうちに時間はすぎ、

あっという間に対決の日を迎えることになった。


「もう今日は当日だけど、

二人とも準備はできてるの?」


猫高橋は当日になっても戦闘しかしてきていなかった二人をみて、

とても心配そうにしていた。


「大丈夫だ。最高のものを用意してある。

すでに向こうに送ってあるから、

二人とも楽しみにしておいてくれ」


遼香は不敵に笑った。

何を考えているのかは知らないが、

自信はあるようだった。


「僕も大丈夫です。

ちゃんと考えておきましたから、

お二人に手伝ってもらったので、

多分大丈夫だと思います」


「そうなんだ。

それならいいんだけど。

遼香さんは自分の地位を使って色々やってたみたいだけど、

緑箋君は何も頼まれなかったけど、

本当に大丈夫なの?」


「いやいや、毎日お二人に訓練に付き合ってもらってるじゃないですか。

大助かりでしたよ」


緑箋はさも当たり前のように平然としている。


「あれって三人で戦ってただけじゃないの?」


確かに訓練と称して三人で楽しそうに戦っていただけであった。


「それが今回の秘策ですよ」


珍しく緑箋が微笑んだ。


「そうなの?緑箋君がそこまで言うんだったらいいんだけど。

もう時間だからそろそろいきましょうか」


三人はまた魔界へ旅立つことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る