第281話 勝負案決定

遼香は腕組みをしながら考えをまとめているようだった。


「緑箋君の案は確かに面白いかもしれないな。

確かにそれだと魔王たちが勝負にならないと言い出しかねないが、

実際に二人の魔王がどのような反応を示すのかはみてみたい」


「でも誰がそれを魔王に仕掛けるんですか?」


「それはもちろん本人同士だが、

それだけでは多分勝負にならないと思うから、

あと二人参加してもらわないとダメだな」


「その中に遼香さん入ってるのはわかるんですが」


猫高橋の話に遼香は少しおどけて笑って見せた。


「もう一人は誰にするんですか?」


「それはもう決まってるだろう?」


「遼香さんが指名したい人でもいるんですか?」


流石の猫高橋も誰を参加させるのかはわかっていないようだった。


「この案を選んだ緑箋君だよ?」


「ぼ、僕ですか?

確かに選んだのは僕ですけど、

魔王に対して僕ができることなんてありませんよ」


「そうかな?

多分緑箋君がこの案に一番適任だと思うんだがなあ」


「そうでしょうか?

優しい緑箋君には向いてないと思いますけど」


「ああ、朱莉はまだ緑箋君のことが何にもわかってないんだな。

緑箋君は優しいだけの人じゃないよ。

大体そんな優しい人は今ここにいないはずだろう?」


なんだかすごく後ろ向きな言い方だが、

猫高橋も緑箋も納得してしまった。


「まあそうですけど、緑箋君、どうかな?

本当にいけそうかな?」


猫高橋に言われても緑戦も自分ではよくわからなかった。

だが遼香が言っていた通り、

緑箋は自分が優しい人間だとはあまり思えないのも事実だった。

もちろん困った人を助けたいという気持ちはあるが、

率先して自分が前に出て助けるというほどの優しさを持ち得てはいないだろう。

そして前の世界の時で言えば、

緑箋の心は闇に閉ざされており、

世の中を恨み妬み蔑んで生きていたところもある。

自分の心の憶測にある誰にも見せたことのない、

闇の部分があることは確かである。

だが実際に生きている人間にとって誰でも持っているものであるし、

特別緑箋だけが抱えている闇なんてものは具にもつかないものである、

そう思っていたのも確かである。


今回この案を緑箋が選んだのには訳がある訳でもない。

単純に直感的に面白そうだったのと、

逆にどうなるのかということをこの世界で見てみたかったというくらいの話である。

だがこれは本当にとても重要な分岐点かもしれない。

二人が戦うということはあってはならないことなのだ。

そこには真剣に挑まないといけない。

緑箋は自らこの案を出した責任もあると思い始めていた。


「そうですね。自分が選んだ案ですから、

もしこれでいくのであれば、

責任をとって僕も参加したいと思います。

でもお二人の協力もお願いします」


「もちろんだよ緑箋君。

緑箋君一人の負担には絶対にしないから。

ちゃんと遼香さんも助けてくれますよね?」


「当たり前だよ。

二人の階級上の上司は私だからな。

責任は全て私が取る。

だから緑箋君も思いっきりやってもらって構わない」


「わかりました。全力を尽くします」


「よし、じゃあ決定だな。

これで二人の魔王に連絡することにしよう。

日程は向こうの予定もあるが、

今週末という感じで行こう」


「じゃあ二人で資料をまとめて、

今日中に先方に確認しますね」


「よろしく頼むよ」


遼香は満足そうに部屋を出ていった。

緑箋と猫高橋は早急に資料をまとめにかかった。

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