第277話 遼香が来る前に

猫高橋が用意してくれていた書類を緑箋は読み始めた。

基本的な軍の紹介や心得なんかがまとめてある。

どう考えても一度は目を通しておいた方が良い文章である。

新人に向けて用意されている書類なのだろうが、

もし猫高橋がいなかったら、

配られていなかったのではないかと思うと少しだけ恐ろしい。

働き出してしまったらもうあまりみなくなる書類ではあるが、

緑箋は時間もあるので読み込んでいった。

緑箋はこの本部に来てから広島に行った時に外には出たが、

その後もここがどこにあるのかはまだよく理解していない。

そんなことも書いてあるのかと思ったが、

本部についてはよくわからなかった。

ふんわりとその来歴や建物の様子なども書かれているが、

当たり障りのない施設のみの紹介になっており、

実質見学者に配るチラシのような内容であった。

まあ情報はそれなりになったら開示されるのだろう。

緑箋はまだまだわからないことだらけで不安ばかりであった。

そもそも心配性でどういうふうに対処したらいいのか、

わからないだらけのことを考えすぎてしまって、

オロオロするばかりの性格だったのだが、

この世界に来てなんとなくそんな性格も変化してきているようだったあ。

あまりにも周りにいい人が良すぎるということが原因かもしれない。

そう言われてみれば、前の世界で緑箋にとっていい人という人は一人もいなかった。

逆に緑箋を都合のいいように使う人間しかいなかった。

もちろんそれは緑箋の行動にも原因があったことは否めないが、

それにしても人の運がなかったことは事実である。

そんな運しか持っていなかったから、

生まれ変わってこの世界にきてからは、

人に恵まれるようになったのかもしれない。

まあこの世界の根本から基本的にいい人ばかりなのかもしれない。

ただその世界に影を落とす大きな存在がいることもまた確かである。

ただ一つの巨大な影があるために、

人が団結しているからこそのこの世界というのはある意味皮肉でもある。


「遼香さん遅いね。

まあああ見えて、遼香さんも忙しいから。

昨日の報告もあるだろうし。

さーじゃあ遼香さんが来る前にこっちの資料をまとめておきますか。

みんなが色々送ってくれているから、

緑箋君も確認してもらえるかな?」


「もちろんです」


「ありがとう、とりあえず資料を送ってあるから、

これを一つずつまとめて集計してもらえるかな。

書きやすいような雛形を一応作ってあるけど、

正式にどこかに提出する書類じゃないから、

緑箋君がわかりやすいようにまとめてくれれば助かる」


「わかりました。

件数と内容をまとめたらいいんですよね」


「うんそんな感じで、

あと面白そうなものがあったらそれはメモしておいて」


「はい、やってみます」


単純に内容を上げていけばいいかと思っていたが、

二人はいろんな人が送ってくれた勝負大喜利に苦戦することになった。

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