第276話 二日目

翌日。

緑箋は昨日と変わらずにまた遼香の執務室を訪れた。


「おはよう、緑箋君。

緑箋君の机はこっちね」


すでに執務室の中で何やら仕事をしていた猫高橋は、

奥の部屋へ緑箋を案内する。


真新しい机が用意されていた。


「それからこれは新しい端末だから、

身につけておいてね。」


机の上には軍用の端末がおいてあった。

左腕に装備する新しい端末である。

考えてみると今つけているのは学校用の端末のままだった。


「それと、れいちゃんの席はこっちね」


緑箋の机の前の棚に龗が座れるような場所が設置されていた。

ふかふかの布団が敷かれている。

龗はふわふわと飛んでその布団を確かめながら、

丸くなった。

昨日は流石に魔王との面会だったので慣れない部屋に一人置いて行ったのだが、

今日からはまたいっしょに行動できる。


遼香に軍に誘われていた時に懸念していたことの一つが龗のことだったのだが、

入隊前に遼香に相談すると一言だけだった。


「別に構わんよ。

私も龗は大好きだからな」


軍隊でどのような活動をするのかわからなかったのだが、

今のような遼香の直属に配属されるのであれば、

涼香が問題ないといえば問題ないのだろう。


「何かいう人もいるかもしれないが、

多分自分で対処できるだろう。

なー龗」


遼香は龗の頭を撫でながらそう話していた。

ということで今日から龗もいっしょに行動する。


「さて、とりあえずはこんなところかな。

まだ軍の話も、仕事の内容の話はしてないけど、

まあおいおいわかっていくから大丈夫だと思う。

そんなこと言われても心配だと思うけどね」


猫高橋は笑った。


「ちなみに私も緑箋君と同じで、

遼香さんの直属の部下ってことに今年度からなりました。

だから同僚だね。

これからよろしくお願いします」


猫高橋は右手を出してきたので、

緑箋もそれに答えてがっちりと握手した。


「ふふふ、龗もよろしくね」


寝ている龗の頭を撫でると、

キュンと鳴いた。


「龗もよろしくって言ってますね」


「だといいんだけど。

遼香さんは朝の会議をしてからここに来るからもう少し時間がかかると思う。

それまでは端末に入ってる文書を読んでおいて。

ここの説明とかを入れておいたから、

まあ多分そんなに使わないと思うけど、

暇つぶし程度に読んでおいて」


「わかりました」


「そのあとは昨日の続きをやるから、

緑箋君にも手伝ってもらいたいの。

昨日の段階でみんなに質問を送っておいたから、

その返答を手分けしてまとめて、

なるべく今日中に魔王たちに勝負内容を送りたいと思う」


猫高橋はあの後、即行動しておいてくれたのだろう。

時間がないから仕方がないが、よく働く。


「ちなみに遼香隊の全貌は私も知らないの。

十名程度というのは緑箋君も聞いてたと思うけど、

それが本当かはわからない。

この部屋で働いている人はもう一人いるんだけど、

今は出張中だから、また来たら紹介するね。

その他の人は全国に散らばって働いているみたい。

私も緑箋君の少し前に配属されてるから、

まだ二人くらいしか会ったことがないの。

だから新人同士頑張りましょうね」


「ありがとうございます。

猫高橋さんがいて心強いです」


本当にこれは緑箋の本心からの言葉だった。

猫高橋がいなかったら多分潰れていたかもしれない。

やはりここでも緑箋は人の運に恵まれていたのである。

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