第275話 初日の終わり

魔界の扉の外まで馬車が送ってくれた。


「またいつでもお越しください」


まるで魔界の扉の前とは思えない挨拶をして老爺は少しだけ笑った。

三人は老爺に感謝を告げて魔界を後にする。


「ここからはサクッと帰りましょう」


猫高橋はそういうと、三人の手を取り、

転送装置まで瞬間移動した。


「やっぱり早いですね」


「準備しておいてよかったよ」


緑箋に答えた猫高橋は微笑んだ。


「とりあえず、私の部屋まで戻ろう」


遼香はそういって設定をすると、

朝来たように遼香の部屋に戻ることができた。

三人はフラフラと応接間の椅子に倒れるように座った。


「疲れましたね」


猫高橋が本当に疲れたような声でいう。


「そんなに疲れるはずはなかったんだがなあ。

なんだかんだ言ってやっぱり二人の魔王との会談は、

神経を使ったかもしれないな」


遼香がそういうののだから、

相当の迫力があったのだろう。


「僕はついて行っただけなのに、もうふらふらですよ」


緑箋は特に何もしていないはずなのに、

体は疲れ切っていた。

もしかしたら魔力の訓練よりも疲れていたかもしれない。


「その気持ちよくわかるよ、緑箋君。

でも遼香さん、二人の魔王の勝負って何か考えがあるんですか?」


「ああ、それなんだが、それはこれから考えないといけないなあ」


「何も考えてないんですか?」


「ん?そりゃそうだよ。

会談の時の雰囲気で決めたんだから。

二人とも闘いは乗り気じゃなさそうだったから、

それ以外の感じで考えないといけないんだが、

二人も何かいい案があったら考えておいてくれ」


「そう来ましたか。

でもそうですよね。

あの時はこのまとめ方が一番よかったでしょうし。

それでも勝負の内容は早急に決めないといけませんね。

伸ばしているうちに二人の関係がまた悪化しても困りますから」


「なので一応明日までにはまとめて先方に送ってみたいと思う。

他の人間にも意見を聞きたいところだが、

魔王の二人の勝負というところは避けて、

どんな勝負をしたら面白いかという感じて、

みんなにも意見を募ってもらえるかな?」


「わかりました、それはこちらで今から送っておきます」


遼香と猫高橋は疲れていながらも、

すでに前向きに話を進め始めていた。


「緑箋君も今日はよくやってくれた」


「いや何もできなかったと思いますが……」


遼香の労いに緑箋は悔しそうに答える。


「何も聞かされずにあの場にいて、

何も問題がなかったこと、

さらに言えばとりあえず話がまとまったこと、

これは今日の大いなる収穫だよ」


まあそれはそうなのだろうが、

緑箋がいてもいなくても特に変わらなかったのは間違いない。


「緑箋君。自分が何もしていないと思っているかもしれないが、

今日の結果は緑箋君がいたからこういう結果になったとも言えるんだよ。

別のものが参加していたら、

会談をぶち壊していたかもしれないし、

いるだけで魔王の機嫌を損ねる者もいたかもしれない。

だからいい結果に終わったんだからそれでいいんだよ」


遼香の言葉は確かに一理あるが、

それでも自分の存在価値を考えると、

緑箋は果たして自分に価値があったのかと考えざるを得なかった。

まあ最低限のこととして何もしなかったというのは、

前の世界の緑箋から考えればすごい進化とも言える。


「じゃあ今日は疲れただろうから、これで解散しよう。

朱莉もあとは明日に回していいから。

今日はしっかり休みなさい。

私も早く寝るよ」


気疲れしたのか、遼香にしては珍しく疲労の顔が見えていた。

三人はそれぞれ部屋を後にした。

緑箋にとって初の任務。

忘れられない長い一日が終わった。

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