第274話 魔王の元からの帰り道

神ン野と丁重に挨拶をして別れた三人は外へ出て、

また馬車に乗り込んだ。

老爺は三人を入り口まで案内してくれるという。

外は山の中だというのに茜色に染まっていた。


「夕日もないのに綺麗ですね」


そういう猫高橋に対して老爺は答える。


「ここの空は外の空と連動しております。

外の光が入ってくる仕組みになっておりますので、

青空だったり曇り空だったり夕焼け空だったり、

外と同じような光に包まれるのです」


「そういう仕組みになってるんですね」


「風がなく、気温も一定に保たれておりますので、

外の世界よりも住みやすいかもしれません。

その分変化があまりないということは言えるかもしれませんが。

ただ外で大雨が降ったときには、

こちらでも雨のように水が落ちてくることがありますし、

地下水が増えて氾濫のようになることもありますので、

そのあたりは外の世界とあまり変わりないかもしれません」


山の中の生活にもやっぱり苦労するところは多いのだろう。

それでも外の世界とあまり変わらないような風景が広がっているので、

やっぱり豊かな生活を送れているのだろう。

魔界というとどことなくおどろおどろしい想像をしてしまっていたが、

住んでいる妖怪たちも穏やかな感じがしていた。

今日会った魔王二人とも、それほど好戦的な感じがせず、

憎めない感じがしていたのは、そういう気候風土があるのかもしれない。


もともと人間が及ばないところにある力を理解しようとして生まれた、

人ならざるものたちへの畏怖と敬意というのは明らかに過剰なものがある。

この世界ではそれが現実のものとして存在しているわけだが、

存在しているのであるのならば、

人の都合のいい存在として作られているだけではなく、

自らの生活も大事にしていかなくてはならない。

そういった意味で色々なところからの影響を受けながら、

前の世界とはまた違った進化をしてきているのだろう。

これだけ広大な世界が広がっているのなら、

わざわざ争う必要はないのだから。


その中でも好戦的な存在としてあるのが魔族である。

ここの魔族とは全く違った種族である。

長い歴史の間魔族と人間たちは戦いを繰り広げてきた。

魔族の侵攻ももちろんあるが、

逆もあったのだろう。

どちらかが滅びなければ解決しない問題なのか、

そうでないのかはわからない。

深い歴史の中ですでに引き返せないところまでの因縁があるのは確かだろうが、

だからと言ってその流れに乗らなければならないのか、

その流れに抗えないのか、

人と魔族の知恵で解決策が考えられないのか、

そんなことを今回の魔王と出会った緑箋は考えていた。

この世界にきてまだまだ時間が短い自分のような存在が、

おいそれと語っていい問題ではないのは百も承知だし、

そんなに甘いものじゃないということもわかっているのだが、

それでも力ではなく知恵で解決する方法を探れないのなら、

頭はなんのためにあるのかと思わざるを得ない。

なぜか緑箋の頭の中をぐるぐるといろんな思いが渦巻いていた。


外はそろそろ闇に包まれようとしていた。

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