第273話 神ン野の考え

三人がお茶を飲み干すと、老爺が音もなく入ってきて、

あっという間に茶器は片付けられていき、

同時に机と椅子が運んでこられ、

茶室が小さな洋室へと変わっていった。


「正座のままお話しするもの大変だから、

このあとは椅子に座ってお話しさせていただこうと思う」


神ン野の進めに三人はまた椅子座り直した。


「重ね重ね、今回はこんな遠くまで来ていただいて感謝する。

ここの前に山ン本のところにも行かれたそうだから、

もう話は聞いていると思うが、

正直はたから見たらくだらない争いかとも思われる。

巻き込んでしまったことは本当に申し訳ない」


「いえいえ、こちらの配慮も足りませんでしたことをお詫びいたします。

山ン本様との会合の結果を話す前に、

まず神ン野の方のお話も伺いたいのですが、よろしいでしょうか」


遼香の問いかけに笑みを浮かべながら神ン野は話し出す。


「もちろんそのために来ていただいたのだからな。

山ン本の方でどのような話を聞いてきたのかはわからないが、

結局揉め事はくだらないことで、

どちらのものがいいかということになる。

今冷静になってみれば、どちらが上も下もない。

素晴らしいものをいただいたと思っているのだが、

なぜかあの顔を見ると素直に認められなくなってしまうのだ」


そういうことはある。

中等生のような話かと思う人もいるかもしれないが、

男というのは案外そんなくだらないことに誇りを持っていたりする。

それは年齢は関係ないのだろう。


「正直いうと、これは山ン本も同じなんだろうと思う。

振り上げた拳を下ろす機会がなかなか持てない、

そして自分から下ろすということもできないのだ。

これは誠に申し訳ないことだが」


「山ン本様もそのようなお話をされておりました。

おそらくお二人ともこのまま争いになるのは避けたい、

いつまでもこの話を拗らせておきたくないというところなのではないか、

そう推察いたしますがいかがでしょうか?」


「遼香の言うとおりだろう。

誇りといえば聞こえはいいが、

今はそんなことに誇りをかけて戦うと言うことが、

全く釣り合わないと言うことはお互いにわかっている。

だが一度進み始めたものを止めるのが難しいと言うところもあるのだ。

自ら引けばいいとお思いかもしれないが、

わかっているのだが、

引けないこともあるのだよ」


神ン野は上を見上げて大きくため息をついた。

山ン本もそうだが、

正直もう二人の中では終わっている話で、

あとはどう矛を収めるか、そのきっかけが欲しいと言うことなのだろう。


「神ン野様のお話伺わせていただきありがとうございます。

お二人の話を伺った上で、

神ン野様にご提案がございます」


「ほう、それはぜひ聞きたい」


「戦争以外でお二人に勝負をしていただき、

その結果を受け入れ、

敗者は素直に頭を下げ、

勝者はそれを受け入れもう気にしないと言うことでございます」


「なるほど、

山ン本はこちら次第と言っているのだろう?」


神ン野ももう話が飲み込めているようである。


「その通りでございます。

まだ何で勝負するかということは考えついておりませんので、

日を改めてその勝負を行うということになります」


「承知した。

遼香たちに決めてもらった勝負ならばどちらが有利不利ということもないだろう。

正々堂々と勝負させてもらおう」


「ありがとうございます。

では追ってお二人にご連絡いたします」


「どんな勝負ができるのか楽しみにしている」


神ン野は不敵に笑った。

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