第271話 洋館の中の枯山水

洋風建築の建物の中はこれまた豪華絢爛な装飾品で満たされていた。

フカフカの絨毯が敷かれた床の上を進んでいくと、

中庭があった。

和風の枯山水庭園が広がっていた。

小石や砂利が絶妙な配置で敷かれ、

まるで自然界の風景を模したような美しい景観が広がっていた。

枯れ木や岩、そして青々と茂る苔が庭の中に配され、

その中に小さな石灯篭が静かに立って庭を見守っていた。


「ここに和風の庭が」


緑箋は洋館の中に枯山水の庭があることに驚いていた。

しかしどことなく懐かしい庭は、

当たり前に存在し、

和も洋も関係なくそこにあるという不思議な調和を見せつけられていた。

その庭の奥には格子の障子があり、

中は小さな茶室であった。

三人は潜って茶室に入る。


「神ノ野はすぐに参りますので、

しばしお待ちください」


老爺は部屋を後にして三人は茶室に取り残された。


「なかなか二人は対照的な感じなんですね」


緑箋が感想を漏らす。


「そうなんだよね。だから難しいっていうところもあるんだけど。

逆に合うんじゃないかって思ったりもするんだよね」


猫高橋は今までの二人の関係を見てそう思っているのだろう。


「なんだかんだ言って結構馬があう二人なんだと思うよ。

激しい争いをしたことはないみたいだしね」


「そんなもんなんですね」


「まあ戦っていいことなんてそんなにないからね。

勝っても負けても結局損害は大きいから、

立て直すのは難しいよ」


それはその通りである。

勝てばもちろん領土が広がったり、財宝が奪えたりするのだろうが、

失った命は帰ってこない。

人的、物的被害も大きなものになる。

やっぱり戦いを避けるのが一番賢い方法なのだろう。

誰しもそんなことがわかっているのに、

争いは起こってしまうのだが。

そんなことを話していると、

スっと襖が開いた。


「皆様お待たせいたしました、

神ノ野でございます」


老爺がそう告げると、

王様が現れた。

金や銀の刺繍や装飾が施されているベストの下に

襟や袖口や胸元などに繊細な刺繍やレースが施されたシャツを来た、

いやゆるヨーロッパの王が現れた。

腕にはしっかりと贈り物の腕輪が輝いている。

王様は襖をくぐって茶室に入り、

三人の前にどかっと座った。


「久しぶり、遼香。

元気そうでなによりだ」


遼香の顔は広い。


「お二人は初めてだと思うが、

ようこそ、我が城へ。

私が神ン野悪五郎である。

遠くまでお疲れのことと思う。

今日はこの茶室でお茶を振る舞いながら、

お話しさせていただきたい」


茶室に西欧の王様というなんとも不思議な取り合わせではあるが、

神ン野があまりにも堂々としているのでそれほど違和感がない。

思い込みというのは人の目を狂わせるが、

あまりにも圧倒的な存在の前では、

違和感を解消してしまうのだなと緑箋は思っていた。


三人の前に老爺が美しい和菓子を置いていく。

神ノ野が全て置かれるのを見終わっていう。


「私どもの作った和菓子だ。

お口に合えばいいが。

どうぞ」


そう言って和菓子を勧めてくれた。

突然のお茶会が始まった。


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