第268話 山ン本五郎左衛門と対面

三人が入ってきたところとは別の奥の扉が開いた。

先ほどの少年が開けた扉から、

かみしもを着た武士風の男性が現れた。

三人は立って出迎えた。

男性は三人の前に立つ。


「遠いところまでようこそ。

私が山ン本五郎左衛門でございます。

桜風院どのもお変わりなく元気そうで何よりです」


「ありがとうございます。

山ン本様もお元気そうで何よりです。

こちらの二人は私の部下になります、

猫高橋朱莉と薬鈴木緑箋と申します」


遼香に紹介された二人はよろしくお願いいたしますと頭を下げた。

緑箋は山ン本五郎左衛門の慇懃無礼な態度に少しだけ驚いていた。

見た目は顔の整った普通の中年男性であり、

魔王と言われていなければ気が付かなかっただろう。

確かにその目の奥には底知れない深淵が広がっているようでもあり、

秘められた魔力は相当のものがあると感じさせてはいたが、

周囲に圧倒されるような魔力を見せつけるでもない人物に見えた。


「ご丁寧にありがとうございます。

まあそんなに畏まらずに行きましょう。

さあ、おかけください」


山ン本がそういうと全員が席に座る。


「今回は私どもの贈り物の件で、

大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


遼香がまず先に謝った。


「いやいや、遼香殿。

あの指輪に関しては全く問題ありませんし、

私はあれほど素晴らしい指輪を見たことがありませんでしたし、

まさかいただけるとも思っていませんでしたから、

大変光栄に存じております」


山ン本の人差し指にはその指輪がきらりと光っている。

山ン本は愛おしそうにその指輪を撫でている。


「いやしかし……」


そう言いかけた遼香を神ン野は手で制す。


「この指輪の問題ではありません。

あの神ン野の野郎が……」


何かを思い出したらしく山ン本の周りに魔力が漏れ出している。

慇懃無礼で冷静だった口調が少し変わってしまうほど、

相当な怒りのようである。


「いやまあ確かに、あの腕輪も相当なものだと思います。

どちらが上というものでもないでしょう。

制作された方にとってはどちらも大事な品。

その魂が込められていることがわかるほどの一品ですから、

バカにするということはあってはならないことです。

もちろんそんなことは神ン野の野郎もわかっているはずです。

神ン野の野郎もどちらがいいとか悪いとか言いたいんじゃあないんでしょう。

だがあの笑いは、絶対にこちらをバカしにしてるに違いない笑いなんですよ!」


山ン本はそれを思い出して机を叩こうとして、ギリギリで止めた。

客人の前ということを思い出したのであろう。


「それに関しましてもやはりこちらの落ち度という点もございます。

指輪と腕輪というのはお二人に合わせたものとして考えさせていただいたのですが、

少し考えが足りなかった点もございました」


遼香は頭を下げた。


「いやいや、桜風院殿。

先ほども言いました通り、

二人とも皆様方のお気持ちに関しては感謝しかございません。

このことは誤解なきようにお願いいたします」


「わかりました。

お心遣い感謝いたします。

では山ン本様はこの件はこれで手打ちにしてもいいとお考えでしょうか?」


「神ン野の野郎次第ですなあ。

あいつが考えを改めれば、

私もわざわざことを起こそうとは考えておりません」


結局はそうなる話である。

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