第265話 比熊山

一瞬で三人は移動した。


「ここは広島のみよし。

三に次と書いてみよしね。

ここから北東の方の比熊山の地下に魔王がいるの」


猫高橋はそう説明する。

前の世界では比熊山が稲生物怪禄の鍵となる場所である。

稲生武太夫、当時の幼名は平太郎が肝試しの対決をすることになって、

比熊山で祟りがあると言われたところへ行った。

そこで百物語をしたとか色々な話があるようだが、

そこへ行ったことがきっかけになって、

稲生武太夫の周りに次々と怪異が起こることになった。

つまり、二人の魔王の怖がらせる少年の一人として、

目をつけられてしまったということだろう。

そしてその話が広まって、絵巻物が残され、

今に伝わっているということになる。


ということであくまでも山ン本五郎左衛門は、

稲生武太夫を怖がらせるために広島に来たということなので、

広島の魔王なのかということには疑問が残るが、

この世界では二人の魔王がここにいるということになっているようである。


三人は揃って比熊山へ登る。

飛んでしまえばすぐの場所だが、

三人は観光がてらゆっくりと歩きながら進んでいく。

比熊山は標高332メートルほどの小さな山である。

道のりもそれほど険しくもなく、

登山というよりは散歩のような感じで楽しめる山である。

三人は天気の良い中、

少し楽しみながらの登山を楽しんでいた。

山の下から山頂までは早く登ってしまえば三十分もかからない。

体を動かしながら緊張をほぐすにはちょうどいい感じである。


比熊山は標高が低いとはいえ、

南の平野が一望できるとても景色の良い場所であった。

三人は思ったよりも綺麗な景色を楽しみながら、

山頂で少し休憩した。


「このさらに山の奥に魔界の入り口があります」


猫高橋は景色のいい街とは反対の方を指さして説明する。


「まあ魔界というよりは地下空間といった方がいいかもしれないけど。

今日はそこに入って、二人の魔王と話すことになります」


「二人一緒にってわけではないですよね?」


「そうだね。

流石に二人と一緒に話すというのはまだ早い気もするから、

とりあえず二人の話を聞いてから、

その対策が取れそうならやっていくって感じかな。

そうですよね、遼香さん」


「まあそうなるだろうなあ」


遼香はどことなく上の空である。


「何か納得がいかないことでもあるんですか?」


遼香のそんな対応を見て、

猫高橋が質問をする。


「いやそういうわけではないんだが、

少しだけきな臭い感じもしないでもないのが、

なんとなく嫌な感じなんだよね」


こういう時の遼香の勘というのは当たるのが怖い。


「遼香さん、冗談じゃ、

ないですよね」


「まあね。

取り越し苦労なら良いんだが」


「多分そうじゃないんでしょうねえ」


猫高橋は山頂から気持ちのいい街並みを見ながら、

複雑な顔をしていた。

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