第264話 いざ広島

翌日。

緑箋は朝食事をしたあと、

待ち合わせの場所に向かう。

すでに猫高橋が待っていた。


「おはよう、緑箋君。

よく眠れた?」


「はい、しっかり寝てきました。

何があるかわからないですから、

体調だけはしっかりしておかないと思いまして」


緑箋はクヨクヨと考える方ではあるが、

寝ることに関しては困ったことがない。

どんなに悩んでも眠りたい時にはすぐに眠れてしまうし、

どんな場所でもすぐ眠ることができる。

これだけは密かな緑箋に自慢の能力であった。

ただ残念なことに、

眠ってしまえば全て忘れるということはなく、

眠った後もまた眠る前と同じように悩み続けてしまうのも、

緑箋の能力の一つである。


「魔王と会おうというのに、それだけ眠れたんだったら、

きっと大丈夫そうだね」


何が大丈夫なのかわからないが、

緑箋はそこは気にしないようにしておこうと思った。


「じゃあじゃあ執務室へ行きましょう」


猫高橋に連れられて二人は遼香の執務室へ向かう。

昨日の帰りも通ったとはいえ、

似たような作りで似たような扉が続くので、

どこがどこだかよくわからない。

わざとそうしているのかもしれないが、

猫高橋はよく迷わないものだと感心する。

まあ猫高橋がこんなところで迷ったりしていたら、

仕事にはならないのだろう。

時折すれ違う人と猫高橋は挨拶していくので、

緑箋も頭を下げて会釈をする。

そんなことを数回繰り返しているうちに、

遼香の執務室へ到着した。

結構歩いたような気がする。


猫高橋が扉を叩いて合図をすると、

中からどうぞという声がしたので、

二人は扉を開けて部屋に入った。


「二人ともおはよう。

緑箋君、昨日はよく眠れたかな?」


さっき聞かれたばかりの質問をされたので、

猫高橋と緑箋は顔を見合わせて笑った。

そんな二人を見て怪訝そうな顔をする遼香に、

さっきも猫高橋さんに聞かれたんですよと、

緑箋は先ほどと同じように答える。

二人ともなんだかんだ言って緑箋を心配してくれているのだ。

考えてみればそれは当たり前で、

まだ研修も全くしていない新人のしかも中等生を、

二日目からいきなり実地へと連れ出そうとしているのだ。

二人とも勤めて明るく接してくれているのも、

そんな緑箋の緊張を解こうとしてくれているのだろう。

まあ二人の生来の明るさももちろんあるとは思うが。

緑箋はそんな二人の気使いをとてもありがたく思った。


「私も準備は万端だ。

まだ時間はあるが、

先に広島へ入って向こうで少し落ち着こうか」


「そうしましょう。

緑箋君にも今日のことを少しお話ししておかないといけないですしね」


「はい、よろしくお願いします」


「じゃあ行こう」


遼香はそういうと、

部屋の奥にある扉を開けた。


「これは私専用の転送装置だ」


いついかなる時も一番先に動きたいという遼香の要求なのかもしれない。

三人は遼香の転送装置で広島へ飛んだ。

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