第260話 一触即発

「とまあその二人の魔王、

山ン本五郎左衛門さんもとごろうざえもんと、

神ン野悪五郎しんのあくごろうが、

またちょっと険悪な雰囲気になっているってわけなの」


猫高橋も困ったように話を続ける。


「この二人は前に少年を怖がらせる対決をして、

結果として神ン野悪五郎が勝って、

それで一時期はおとなしくなっていたの」


どうやらこの世界でも話の結末は同じだったようである。


「一言に魔王と言っても、

どうも色々あるみたいで、

今敵対している魔族の魔界は、

遠くの海上の陸地にあるわけだけれど、

この二人の魔王は日本の巨大な地下空間で暮らしていて、

基本的には日本を襲おうとか、

日本を我が物にしようとかいう感じではないんだ。

それは魔王の争いで、

二人の子供を怖がらせるという対決をとっていることからもわかると思う」


確かに魔王同士の戦いを少年を怖がらせるということにするというのは、

あまりにも矮小すぎる戦いになっていると、

緑箋も昔から思っていたことだった。


「とはいえ二人とも魔王と言われるだけあって、

その魔力は確かに強大だし、

もし本気で戦ったらどれだけの被害が出るかということもわからない。

天変地異程度の被害で済んだら御の字ということすらあるかもしれない。

魔界で戦われたとしても、

地震とかになって地上への影響も考えられるから、

やっぱり二人の戦いというのは避けて欲しいところなのが本音だから、

かなり経過して、二人の魔王の状況は日々探っているわけ」


「で、その二人の魔王が今一触即発の状況になっているんですか?」


「まあ簡単にいうとそう。

その前の一件以来、

二人が険悪になるかと思ったんだけど、

そんなことはなくて、

むしろ清々しい戦いが終わって友情が芽生えたんじゃないかって思うくらいで、

流石に一緒にいるという機会はほとんどないんだけど、

最近までは二人は良好な関係を築いていたので、

我々としてもほっとしていたの」


「それがなぜ、また険悪になったんですか?」


「まあそれがね、うちの問題に関わってくるんだよね」


猫高橋は大きくため息をつく。


「まあ我々の魔法軍にとっても、

二人の魔王というのは監視対象だし、

もし攻め込まれてくるようなことがあったら、

強大な敵になるし、

魔族との連携などされたらたまったものじゃない。

だからこちらとしても二人の魔王とは円滑にことを進めたいし、

できれば同じ日本に暮らすものとして、

魔族と対抗してもらいたいと思ってて、

年始には贈り物を贈るのが慣習になってるの。

まあお世話になったご挨拶というところね」


「なるほど。

挨拶は大事ですからね」


「そうなの。

二人に同じものを贈るというわけにもいかないから、

同等の位のものを贈るようにしているんだけど、

今年は何か失敗してしまったようなんだよね。

今年送ったのは指輪と腕輪なんだ。

腕のいい彫金師がいるので、

作ってもらったんだけど、

二人ともそれが気に入ったみたいで、

よく身につけていたんだけど、

最近たまたま二人が出会ってしまった時に、

その指輪と腕輪をつけていたらしくて、

どうやら二人とも癪になってしまったらしいんだ」


「指輪と腕輪で?」


緑箋は小学生のような原因に逆に驚いていた。

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