第256話 遼香の執務室

遼香と緑箋は一瞬で別の部屋に移動した。

そこは明らかに位の高い人間に対する部屋だった。

考えるに遼香の執務室であろう。


桜風院遼香の執務室はとても不思議な雰囲気だった。

和室であり洋室であり、どちらとも言えない部屋ではあるが、

和洋折衷とはまさにこのことだと思わされるような、

見事な調和を見せていた。

部屋の奥は畳になっており、

ちゃぶ台のようではあるが、一枚板の巨大な執務机があり、

精巧に彫り込まれた和風の座椅子が置かれている。

机の上には、整然と魔導書や、戦役の記録のようなものが並んでおり、

各端末から常にこの世界の情勢のようなものや、

いくつもの情報や連絡事項などが映し出されている。

左の壁にはびっしりと本が並んでおり、

これもまた貴重な魔導書や歴史書のようなものが並んでいた。

右の壁には涼香のコレクションであろうか、

剣や杖や装飾品などが並べられていて、

可愛らしい女性の描かれた絵画もいくつか飾られていた。


一方、部屋の手前には、来客用のソファとテーブルが配置されている。

そのソファは上質な革で作られ、快適さと優雅さを兼ね備えていた。

そして手前の壁には美しい掛け軸や花瓶などの調度品が配置され、

和の趣と優美さが漂っていた。

遼香の執務室は、彼女の優れた統率力や洞察力、

そして人格の高潔さを反映しているような部屋になっていた。

訪れる者に敬意をしっかりと感じさせながら、

安らぎも与えてくれるような魅力的な部屋になっていた。


「何か珍しいものでもあったかな?」


緑箋が口を開けながら室内を見回していたので、

遼香は笑いながら聞いてきた。


「珍しいものでもではなくて、

珍しいものしかないんじゃないですか?

僕はまだこの世界に来て短いので、

どれが貴重かはわからないですが、

存在しているだけで貴重だと思えるようなものが、

この部屋にたくさんあるということだけはビンビンに伝わってきます」


「なかなか見る目があるのかもしれないね」


そう言って遼香は笑った。


「まあ、ここは私の執務室だ。

そこのソファにかけてくれ」


「わかりました、ありがとうございます」


緑箋がソファに腰をかけると、

執務室の扉が開いた。


「失礼します。

遼香さん、先ほど指示いただいたものを持ってきましたよ」


猫高橋だった。


「緑箋君、入隊おめでとうございます」


猫高橋はもうすでに緑箋がいるということを知っていたのだろう、

当たり前のように笑顔で緑箋に挨拶してきた。

ありがとうございますと言いながら立とうとする緑箋を手で制する。


「大丈夫だよ。座っていて。今紅茶を淹れますから。

遼香さんがハマってる紅茶があるんだよ」


「すまないね朱莉。

でもね緑箋君、朱莉が淹れてくれる方が紅茶が美味しいんだよ」


遼香も緑箋の前に座って話し始める。


「遼香さんはいつもそうやっておだてて、

私に紅茶を淹れさせるんですよ」


微笑ましい会話に緑箋は耳を傾けながら、

この状況がなんなのか全くわからず、

突っ込むことさえできなかった。

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