第255話 新入生歓迎

遼香の言葉に感動して場内は何か熱気に包まれていた。

その熱気を感じたまま、入隊式は終わりへと向けて続いていく。

もうすでに入隊式の最大の山場は終わったので、

少しずつみんなも落ち着きを取り戻しながら、

粛々と入隊式は続いていた。


遼香がこれだけのことをしでかしているので、

もう他に何が起こっても不思議ではない空気も漂っていたが、

あれ以上の突然の出来事は起こらず、

式次第に則って入隊式は進んで行った。


各種お偉いさんのお話なども続いていたが、

それはそれで貴重は話ではあり、

新入隊員たちもそれなりに耳を傾けて真剣に話を聞いていた。


そろそろ話も飽きてきそうだなという頃合いで、

式場の外の様子が見えるように半球体の壁の一部が透明になり、

外の様子に注目するように促された。

先ほど戦闘が行われた地点には先輩の隊員たちは整列していた。

先輩たちはいろとりどりの魔法を上空に発射し、

まるで花火のような歓迎式を行なってくれていた。

各自の魔力の調整と発射する時間を調整して、

心を一つにすることで、

魔法の芸術作品を見せるかのように、

見事な魔法の技術を新入隊員たちに見せてくれていた。

少し緊張していた新入隊員たちの心を解きほぐすような、

素敵な魔法を見せてくれていた。

会場内からは魔法に合わせて拍手がなり響き、

外との一体感を楽しめていた。


そんな素敵な魔法を見ながら、

緑箋は遼香の言葉を思い出していた。

やっぱり遼香の言葉には力があるなあと感心していた。

緑箋はもちろん初めから遼香のことをとても尊敬していたが、

今回もまた遼香のことをさらに尊敬できるなと改めて思っていた。

そんなことを考えている緑箋の真面目な顔を、

ニヤニヤしながら横で眺めていなければもっと尊敬できていただろうと、

緑箋は心の底から思っていた。


「もうまた目立ってしまいますよ、遼香さん」


「いや、もうそれはいいんだよ。

大体誰もこっちを見ていないだろう?」


何がいいのかはよくわからないが、

確かにみんなは外の様子に見惚れているので、

遼香のことに気がついている人はほとんどいないようだった。

流石に近くの新入隊員たちは気がついてはいたが。


「今度はなんですか?

またただの見学ですか?」


緑箋はそう囁いて遼香の顔を見ると、

いつもの笑みが消えていた。


「いや、緑箋君悪いんだが、

一緒に来てくれるかな」


「僕は別にいいですけど、大丈夫なんですか?」


緑箋はそう聞いたものの、

大将がいいと言っている以上、

他のどこに許可を取ればいいのかというのはわからなかった。


「すまないね。一生に一度の入隊式なのに」


「それは全然構いませんよ」


「そうか、ありがとう。

じゃあ少し失礼するよ」


遼香はそういうと緑箋の肩に手を置き、

会場から静かに姿を消した。

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