第249話 最初の五分間の終わり

壁というのは物理的侵入も防げるので、

今回においてはかなり効果的でもあった。

直接攻撃をするには遼香の圧力が怖すぎるという面もあるが、

ちょうど畳一畳分くらいの大きさの土壁があちこちに出現しては破壊され、

その破壊されたかけらによって、直接的な行手を阻む効果が生まれていた。

落ちろん空中に飛んで上から攻撃を仕掛けてくるものも数多くなってきた。

流石にそれは土壁だけでは対処できない、

と思いきや、

緑箋は自分の頭で土壁を回転させることで、

空中からの攻撃を防ぎつつ、

空中からの侵入も防いでいた。


遼香はそれを腕を組んで一歩も動かずに観察していた。

遼香は最初の五分間、

緑箋がどうやって防御するのかものすごく楽しみにしていたようだった。

それこそ半球状に防御魔法を展開して、

時間が切れるまでただ守っていくとか、

それこそ周りを囲ってしまうなどの一般的な防御方法を取ると思っていたのだが、

緑箋の防御方法は流石の遼香の想像も遥かに超えたものだった。

すでに緑箋は光の玉を無数に配置しており、

魔法探知の精度を上げていた。

魔法を打つときに魔力の上昇をしっかり感知して、

どこから魔法を撃たれるのかを完全に把握していた。

五千人という数は確かに多かったが、

攻撃目標は一つだけなので、

防御するにはその間に壁を作るだけなので、

単純作業として壁を高速で配置するだけだった。

もちろんそれには相当の鍛錬が必要なわけではあるが、

緑箋は守熊田や咲耶と共に毎日その能力を高める訓練を行なってきていた。


味方の死傷者を出さない、

そんなことは単なる夢物語であり、

誰もが願ってもできない無理なことである。

大規模な戦闘においては死傷者の数は何千何万という単位にもなるだろう。

そこで今回の死傷者の数は数十人だったとなれば、

それはそれで素晴らしい結果となるかも知れないが、

その時の死傷者の家族や友人にとってそんなことは関係ない。

大切な人が奪われる悲しみは消えない。


例えば病気で、事故で大切な人が亡くなることがある。

とても悲しい出来事である。

それが戦場でも起こってしまう。

ただ戦場の死というのはとても軽んじられてしまうこともある。

報道では数が出るだけである。

その数の数倍の悲しみがあるのに、

誰もそこに気を止めなくなってしまう。


魔法世界に来た緑箋は幾度か戦闘に巻き込まれた。

望むと望まないの関わらず、

この世界でも戦争が続いていく。

夢物語と笑われてもいい、

ここは魔法の世界である。

夢物語は魔法で叶えられるのである。

緑箋はそう自分の中で決意を固めていた。


全てを守ることに比べたら、

二人を守ることはなんて事のない課題であった。

攻撃を見極め、攻撃が当たらないように壁を置くだけの作業である。

緑箋は五分間集中を切らさずにその行動を完遂していった。


攻撃が全く届かずに五分間が終わろうとしていた。

流石に新入隊員たちにも焦りの色が見え始めていた。

遼香は笑って腕を組んで立っているだけである。

その隣の小さな子供によって、

新入隊員とはいえ、五千人の有望な魔法使いたちの攻撃が防がれているのである。


遼香はポンと緑箋の肩に手を置いた。


「流石だな緑箋君。

最高に素晴らしい物を見せてもらった。

想像以上だった。

次は私の番だ」


遼香は組んでいた腕を解くと、

胸の前で合掌する。

遼香の体が光り輝き、魔力が集結してくる。

そのあまりの魔力の流入に、新入隊員たちだけではなく、

観客席にいた全ての人達は一瞬時間が止まったような錯覚を覚えた。


緑箋の隣には鬼神が降臨していた。

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