第247話 入隊歓迎の戦闘が開始される

観客に囲まれた円形の平原の中で、

緑箋と遼香は、残りの五千人の新入隊員たちと退治するように位置取った。

流石に周りを囲まれている状態で攻撃を受けるのは厳しいので、

最初は正面に五千人の新入隊員たちが並んで待つ形になった。

基本的に新入隊員たちは緑箋のことを眼中に入れていない。

遼香にいかに攻撃を当てることだけを考えている。

それが大いなる間違いであると気がつくには、

戦闘開始から数秒もいらないのだが。


「それではみなさん準備はいいでしょうか?

最初の五分間、有効に利用してください」


おーという歓声が響く中、

緑箋は一人気持ちを集中させていた。

すでに外の音は聞こえなくなり、

戦闘範囲内の空気を一つも漏らさないように感じ取り始めていた。


「五秒だけお願いします」


「五秒だけだぞ」


遼香は笑って答えたが、

緑箋はもっとやってもらってもいいという返答を飲み込んで、

さらに集中の度合いを増した。

自分の中に意識を深く入り込みながら、

場内に意識を拡散するように薄く薄く広げていった。


「それでは五秒前から数え始めます」


上空に大きく時間が映し出される。

5から数字が減っていく。

4……、

3……、

2、

1。


0。

戦闘が開始される


誰よりもいち早く動いたのは緑箋である。

緑箋は見えない光の玉を無数に飛ばした。

さらにみみえんで緑箋の姿を見えなくした。

ここまで三秒である。


新入隊員たちは開始直後から攻勢を深めてくるのかとも思ったが、

補助魔法をかけることで自分の能力をあげることを重視しているようだった。

何人かは開始直後に攻撃することに命をかけていたようだが、

その程度の魔法は遼香には届かない。

防御するまでもなく、遼香が睨みつけるだけで、

その攻撃魔法は消し飛んでしまった。


「さあ、緑箋君、五秒立ったぞ」


「はい、もう大丈夫です」


「じゃあこの五分間、任せてもいいかな?」


緑箋は深く深呼吸をすると静かに答えた。


「任せてください」


その答えを聞いた遼香は腕を組み仁王立ちした体制で満足そうに頷いた。

まず五分間攻撃から耐えればいいわけなので、

土壁でも岩壁でも作ればその程度は耐えられるはずなので、

おそらく新入隊員たちもそういう防御形態を取られると踏んでいたように思う。

そのため新入隊員たちはまずそれの防御方法を見極めようとして、

少し慎重になりすぎていたのかもしれない。

敵の出方を伺うというのは間違いではない。

だが今回は攻撃しないという情報があるため、

最初から一斉に攻撃できれば結果は違ったかもしれなかった。

しかし全体での意思統一はできていなかったので、

それはやはり難しい選択だっただろう。

また最初の五分間は攻撃がないとはいえ、

集団から離れて後ろをとって攻撃するという新入隊員も現れなかった。

同じように前に出て直接攻撃を狙う新入隊員も現れなかった。

あらかじめ人数に圧倒的差があること、

そしてその中から一人飛び出していくこと、

これはとても勇気が必要なことである。

特に和を乱すことがあまり好まれない軍において、

個の力で突出していく選択はなかなか難しく、

ただひたすら無駄に時間が流れていくことになってしまった。


このことは緑箋にとって都合がいい状況であった。

緑箋は光の玉を無数に設置する時間を設けれられたため、

すでに魔法探知の準備を終えている。

今回は敵だけしかいないので、

その探知も数が多いとはいえ単純に考えられる分有利だった。


単発で飛んでくる魔法は、

最初はわざとわかりやすく土の壁を出して防いでいった。

そしてわざと一撃で壊れる程度の耐久性で防ぐ様を見せつけていた。


刻一刻と時間は過ぎていき、

遼香の攻撃しない時間が過ぎていってしまう。

防御の様子を見ている新入隊員たちもだんだんその防御力を見極めていき、

少しずつ近づいて、少しずつ周りを包囲しながら、

魔法攻撃をどんどんと仕掛け始めた。

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