第246話 作戦会議

遼香はまた指をパチンと鳴らすと、

先ほどまでいた緑箋の隣の位置にくる。

上空に映し出されている映像には、

満面の笑みで緑箋の肩を抱く遼香と、

この世界に存在する一番苦いものを食べたような顔をしている、

緑箋が映し出されていた。


「そんな子供を使って攻撃を防ごうとしてるんか!」


「そもそもそんな子供が入隊するってどういうことやねん!」


「それは補助じゃなくてハンデじゃないのか」


などという怒号とも嘲笑ともつかないような声が会場中から浴びせられた。

軽口を叩けるだけまだまだ真剣ではないとも言えるし、

それだけの実力と自信を持っているということなのかもしれない。


「遼香さん、これ、まじめにやっていいんですよね?」


「ははは、やっぱり緑箋君、わかってるじゃないか。

私は本気でやらないことなんてないよ。

緑箋君には悪いけど、

これも軍のためだと思ってくれ」


緑箋は遼香がこういうことをやる時に本気でないことがないことはわかっていたし、

おそらくしっかりした目的もあるのだろういうことは理解していたが、

一方その中に遼香の大いなる楽しみが含まれていることも理解していた。

そして遼香の緑箋への思いもしっかり伝わっていることは確かである。

ただやっぱり遼香のやり方は流石の緑箋にも突拍子もないことで、

想像を超えてきていた。

緑箋は最悪を想定してきたが、

遼香はその最悪を簡単に超えてくるのである。


「まあ、僕がもう何を言っても変わらないのはわかってますから。

やるからには僕も真剣にやらせてもらいますよ?」


「そう来なくてはな。

緑箋君が正月に話してくれたこと、

私は忘れてないからな」


遼香は相変わらずの笑みを浮かべている。

緑箋は正月のあの時、

あれだけ酔っ払った遼香が緑箋の話をちゃんと覚えていることに驚いていたし、

おそらく他の人が聞いていたら、

とても他愛もないことだと思うような話を、

真剣に受け止めて聞いていてくれたことにも驚いていた。

だから遼香のわがままにみんなが振り回されたとしても、

それを周りが全力で応えようとしているのだと思っていた。

遼香の人たらしたる所以である。

そしてその魅力に緑箋も惹かれているのだ。

ただ緑箋は気がついていないが、

緑箋の実力だけではない、いつも持つ真剣さと真摯さに、

遼香も惹かれていたのだった。

そうでもなければ遼香が単なる中等生の緑箋に、

こんなにも思い入れを入れるわけがないのだ。


「何か作戦はあるんですか?」


「だから正月に話してくれたことを実践してくれればいい」


「わかりました。じゃあ僕はそれだけしかやりませんよ」


「もちろんそれでいい。

緑箋がそれを完遂してくれれば、

我々が負けることはないからね」


「本当にそれでうまくいくと思ってるんですか?」


「まあダメな時はダメな時だ。

でもそれは緑箋君の望むことではないだろう?」


緑箋は遼香に全て見透かされているようで恐ろしくも感じたが、

逆にやらなければならないというやる気にも満ちてきていた。

緑箋がやる気になるというのは前の世界では考えられないことだったが、

こういうたくさんの人との触れ合いの中で、

緑箋も成長してきている。

本人だけがそれに気がついていなかったが。

緑箋は大きく息を吐く。


「わかりました。

全力を尽くします!」


「それでいい」


二人は固く握手をした。

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