第245話 式辞の後

「ということで皆さん、入隊おめでとう。

これからみんなで一緒に切磋琢磨していこう」


会場からは割れんばかりの拍手がまた降り注いだ。

拍手が落ち着くのを待って、遼香はまた語り出した。


「さて、硬い話はこれくらいにして、

今回は最後皆さんと一緒にこの式を盛り上げていきたいと思う」


緑箋は遼香の笑顔を見て心の底から危険な香りを嗅ぎ取っていた。

嫌な予感というのは的中するものである。


「これから皆さんは私と戦ってもらいます」


緑箋は頭を抱えた。

周りの新入隊員たちは複雑な気持ちのようだったが、

やはり精鋭たちが揃っているのだろう、

一部からはどよめきのようなものが起こり、

気合いが入り始めていた。


「新入隊員の皆、起立!」


一斉に新入隊員が立ち上がる。

その瞬間に遼香がまた指を鳴らす。

すると式典会場の全てが外の演習場へ移動していた。

そして周りの観客席がそのまま大きく外周へ移動していき、

中には遼香と新入隊員たちだけが残されていた。


「この演習場で私は、あなたがた新入隊員全てと一斉に戦います。

皆さんは力の限り私に攻撃してきてください。

最初の一撃を私に与えた人が今日の優勝者となります。

やるからには、せっかくなので、今日の優勝者には商品を出しましょう。

新入隊員の基礎訓練をした後になりますが、

配属先を好きに選んで構いません。

それだけの実力の持ち主として歓迎しましょう」


遼香の発言に俄かに新入隊員たちもやる気が出てきたようである。


「大将の直属の部下になることも可能ですか!」


どこからか大きな声で質問が飛ぶ。


「もちろん、歓迎しますよ。

ただし、私に一撃でも与えられたらですが」


会場はおおーとどよめいている。


「ちなみに私も攻撃しますから、必死に防御してください。

一撃でも当たったものは退場になります。

また今回は班として分けることはありませんが、

攻撃が得意ではない新入隊員の皆さんは、

防御や補助魔法で協力してもらいたいと思います。

防御や補助などで活躍した新入隊員についても、

後ほど評価させてもらいたいとも思います」


「模擬戦闘時間は二十分ほど設けたいと思います。

さらに皆さんには今日のお祝いとして、

五分間、私は何も攻撃しない時間を設けます。

もちろん防御はしますよ。

この五分間を有効に使って、

攻撃するもよし、詠唱するもよし、補助魔法を盛るもよし、

好きなように使ってみてください」


会場はさらに盛り上がり始めていた。


「さて、少しだけ皆さんに有利すぎると思われるかもしれませんね。

五千人を一人で相手にするのも大変ですので、

一人だけこの中から私の補助をしてもらいたいと思っています」


空中に映像が呼び出された。

映ったのはもちろん。


「薬鈴木緑箋君!」


緑箋は天を仰いだ。

その様子は会場の空中に大きく映し出されていた。

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