第244話 入隊式式辞

「皆さん、こんにちは!」


会場中にビリビリと振動させるような大声が響き渡る。

緑箋は耳を塞いでいたのでなんとかなったのだが、

近くにいた他の隊員はとんでもないことになっていた。

遼香は緑箋の隣で突然大声をあげたのだが、

まだどこから声がしているのかわからない人たちも多かった。


「本日は我が魔法軍の入隊式!

素晴らしい晴天に恵まれて、

皆さんの未来を明るく祝福してくれているかのようです。

新たな仲間が加わることで、我々の力はさらに強くなり、

未来に向けての希望も膨らんでいます」


ふざけた場所からではあるが、

遼香は流れるような口調で式辞を述べている。


「さて、私は形にとらわれない人間です。

今はとても堅苦しい立場になぜかいることになってしまいましたが、

その中でも私は日々の楽しみを見つけて、

毎日楽しく、そして厳しく、忙しく過ごしています」


遼香が形にとらわれないことは今話している場所からもよくわかる。

遼香は指をぱちっと鳴らす。


「さて、皆さん、壇上から失礼します」


遼香は一瞬で壇上へと移動した。

これが通常の光景である。


「私は今、皆さんの後ろの席から、

この式の間、皆さんのことを観察させてもらいました。

希望や期待、もちろん不安もあると思いますが、

皆さんがしっかり前を向いて真剣にこの式に参加していることを、

後ろから見ていてよく伝わってきました」


「魔法軍には、勇敢で強い心を持った仲間がたくさんいます。

同期のみんなもそうですし、

すでにいる先輩たちもそうです。

さらに言えば未来に入ってくる後輩たちも大切な仲間です。

ここいる全員だけでなく、すべての人たちが、

ぞれぞれ努力して、団結し、協力し合えば、

どんな困難もきっと乗り越えられると信じています。

今ここにいる同期たちはかけがえのない仲間になると思います。

そんな仲間たちと共に、未来に向かって進んでもらいたい」


「さて我が軍に求められる規律規範というのはもちろんありますが、

皆さんには自分で考えて自分で行動できるようになってもらいたい。

自分勝手にやるのではなく、

自分の行動をすることで全体が最高の力を出せるように、

常に自分の頭で思考して行動できるようになってもらいたい。

あらかじめ決められた決まり事を行うだけならば、

土人形でも水人形にでもやらせてしまえばいい。

もちろん自分で考えた行動を実行するためには、

それを実行するための実力が必要になります。

一日も早くその実力を持てるように、

皆さんには努力し続けてもらいたい。

そして我々はあなた方を導いていくことをここに約束することを誓います」


最初はどうなることかと思ったが、

ここまではまともな式辞であり、

感動すらするような素晴らしい式辞だった。


緑箋は少しだけほっとして、

ほっとするのが早かったと後悔することになった。

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