第243話 入隊式式辞のはず

その他の来賓からの祝辞が続き、

さらに祝電なども続いた。

流石に全国から入隊する隊員が一堂に介している式であるので、

その数は半端な数ではなかった。

名前を紹介するだけでも相当な時間がかかった。


そして新入隊員たちの所属する部隊の発表になった。

機密保持のためなのか、

単なる上の人間の趣味なのかわからないが、

これから所属する部隊についての発表が今から行われるのだ。

ただこれは新入隊員の訓練のための部隊分けであり、

訓練を受けた後、

それぞれの所属地へと転属していく分けだが、

この部隊にも違いがあり、

もちろん幹部候補生を目指す部隊もあるため、

新入隊員たちはこの発表を待ちに待っていたのだった。


新入隊員所属部隊、

と言う漢字が空中に浮かび、

そこから所属先の部隊名が飛び出していく。

花火のように弾け飛びながら、その名前が駆け抜けて行き、

それぞれの新入隊員の頭の上に収まっていく。

その名前が確定すると、

制服に部隊章や階級章などが浮かび上がっていく。

緑箋の左腕には黒字に金色の五芒星が浮かび上がった。


「私とおんなじだね」


遼香はニヤニヤ笑いながら、

わざわざ部隊章を見せつけるようにしてきた。

燦然と輝く五芒星は、

確かに遼香にはよく似合っている。

緑箋にはまだ飾られているような感じにしか見えなかったので、

いつかこの部隊章が似合うようになりたいと緑箋は思った。


「重みに負けないように頑張ります」


「その意気だ」


遼香は辺りを見回して、

それぞれの新入隊員たちの様子を見ているようだった。

個人個人思惑があったようで、

一喜一憂している隊員たちの姿を見ながら、

遼香は微笑んで、どことなく満足そうにしていた。

それほど悪い雰囲気ではないと言うことだろう。


ざわつく場内を司会が落ち着かせる。


「それでは次に参りたいと思います。

魔法軍総大将、桜風鈴遼香、式辞」


そう呼ばれても壇上には誰も出てこない。

それはそうである。

緑箋が間違った認識ではなければ、

式辞を言うべき人間は、今、緑箋の隣に座っているのだ。

流石におかしいと場内がざわざわし始める。

緑箋は恐る恐る隣を見る。

笑っている。

遼香はしてやったりという感じの満面の笑みである。

緑箋はまあこう言うことになるんだろうなあと思っていた結果通りではあったが、

流石に本当にやるとまでは思っていなかったので、

遼香のこの行動力には脱帽であった。

脱帽しながら脱力もしていたのだが。


どうやら関係者の中でこの行動を知っているのはほとんどいないようで、

もしかしたら遼香が緑箋の隣にいるのを知っているのは、

緑箋と遥香だけなのかもしれないと緑箋は思い始めていた。

流石にこのままではまずいと思って緑箋は遼香に声をかけようかと思った瞬間、

遼香はさっと静かに立ち上がった。

周りの人間や観客席から見える人たちには少しだけ気が付かれたようだったが、

まだそれがなんなのか誰なのかまでは理解されていないようだった。

もちろん全く気がついてない人たちも多いので、

場内のざわつきは止まっていなかった。

そんな最中、遼香は大きく息を吸い込んだ。

その様子を見た緑箋は慌てて両耳を手で塞いだ。

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