第240話 室内練習場の中

二人はゆっくり歩きながら室内訓練場にたどり着く。

おそらく正面の入り口であろうところは完全に閉じられており、

そこから入ることはできないようである。

入れないということは出ることもできないのだ。


「ここからは入れそうもないんですね」


「そうなの、普通ならここから入れるんだけどね。

今日は外部の人が多いからここは締め切りだね。

私たちはあっちから入るから、もう少し歩きます」


入り口を通り過ぎ、さらに歩いたところに、

数人の見張りの軍人が立っていた。

今日見た初めての人である。


「猫高橋さん、ご苦労様です」


「ご苦労様です。猫高橋と今日入隊する薬鈴木君です」


「承っております。

こちらの門からお入りください」


「ありがとう」


猫高橋は緑箋に先に進むように促す。

緑箋が門を潜ると身体中を弄られるような感触があった。

人体を検査しているのだろう。

見た目などは簡単に変装できてしまう世界なので、

体の中までしっかり検査しているのかもしれない。

内部構造まで変えられる魔法もあると思うが、

その場合はどうやって見分けているのか、

まだそれは緑箋は知らなかった。

無事に検査を通って、

二人の前の分厚い門が開き、

二人はようやく室内練習場へと足を踏み入れた。

猫高橋の先導で、裏側と思われる通路を進んでいくと、

ついに式会場に到着した。


球場のように周りには観客席が取り囲まれていて、

その中には新入隊員の席が設けられている。

その奥に壇があり、入隊おめでとうの文字が掲げられて、

豪華な装飾が輝いていた。


「さあ、緑箋君お疲れ様。

まだもう少し時間があるから、

まだほとんと新入隊員は来ていないみたいね」


新入隊員の席には誰も座っておらず、

関係者と見られる人々が何やら忙しく動いて準備を続けているようだった。


「緑箋君の席は、えっと、あそこみたいだね。

一番最後に決まったから、一番後ろの端っこの席」


猫高橋は指を刺して教えてくれた。

そういえば中等部の入学式もそんな感じだったことを緑箋は思い出していた。


「猫高橋さん、わざわざありがとうございました」


「時間あるけど大丈夫かな?」


「ああ、大丈夫です。

待つのは慣れてますから」


流石に猫高橋に時間まで一緒にいてほしいとはいえないし、

猫高橋にも仕事があるだろうから、緑箋は遠慮しておいた。


「そっか、じゃああとは席で待っててくれればいいと思うから。

私はこれで行くね。

また後で会えると思うけど、よろしく」


「はい、本当にありがとうございました」


「本当はもう少しゆっくりしていたいんだけど、

まあ私もやらなきゃいけないことがあるからね。

こう見えても忙しい身分なんだよ」


「もちろんわかってます。

僕のために時間をいただいて本当にすみません」


「それはいいって言ったでしょう。

仕事ですからね」


「それでも感謝です」


猫高橋は笑ってその場を後にしようとしたが、急に振り返った。


「あ、言い忘れてたかも。

緑箋君。入隊おめでとう!」


「ありがとうございます」


猫高橋は緑箋に手を振って去っていった。

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