第238話 入隊前の準備

訓練室を終えた二人は部屋を出る。

猫高橋は明日のことを説明したいというので、

緑箋の部屋に行った。

お茶の用意はあったので、緑箋は備え付けの茶碗にお茶を淹れる。


「ありがとう」


猫高橋は訓練の疲れもあったのか、

美味しそうにお茶を飲み干す。

そく空になったので残ってい他お茶を継ぎ足す。


「ごめんごめん。ありがとう。

気が利くね緑箋君」


緑箋は見た目は中等生だが中身はおっさんなので、そのくらいはできるのだ。


「そう、それでね。

明日は入隊式になるんだけど、

他の新入隊員も全員ここに集まるの。

今年の新入隊員は五千名程度という話。

ちなみに他の隊員は当日になるまで、

どこに配属になるのかは基本的には知らされていないの。

試験で魔法適性を見ているので、

それによって配置されていくんだけど、

その後に転部することは可能だから、

また違った興味が起こったら話してみるといいわ。

まあ緑箋君の場合は特別だから、

そんなことにはならないような気がするけど。

人の人生は何が起こるかわからないからね」


「それをいうなら今ここにいることの方が訳がわからないですよ」


「確かにそれはそうだね」


猫高橋はコロコロと笑った。


「緑箋君は遼香さんの直属になるから、

今日はもうここに入寮してもらったんだけど、

遼香さんも落ち着いていないから、

ここに帰って来れる日が年に何日あるかは疑問だね。

最初の数ヶ月は覚えることがたくさんあるから、

訓練が組み込まれているはずだけど、

果たしてその計画通りにいくか、正直疑問はあります」


「確かに遼香さんなら、

全部吹っ飛ばして実戦ということもあり得ますからね」


「まあそういうことですね」


二人は苦笑いしている。


「入隊式前には各地からここに転送されてくるので、

今ここにいる新入隊員は緑箋君だけなの。

まあそれだけ情報漏洩に気をつけてるってことなんだけど。

なので明日も私が迎えに来ます。

必要なものについては端末に送ってあるもので確認してね。

さっき渡した隊服だけ着てくれればいいと思う」


「わかりました。

何から何までありがとうございます」


「ああ、全然気にしなくていいのよ。

今は緑箋君についているから、

久しぶりに遼香さんから解放されてるの。

前も何回か緑箋君の案内をさせてもらったじゃない?

だから緑箋君には本当に感謝してるんだよ。

まあ、たまにはこういうものいいよね」


猫高橋はイタズラっぽく笑った。

遼香さんの直属なのでかなり優秀な人材なのは間違いないのだろうが、

屈託なく笑う笑顔を見せる猫高橋はとても可愛い普通の女性にしか見えない。

考えてみると、猫高橋が戦っている姿はまだ見ていなかったが、

今日一緒に訓練をしていて、

大変そうだと言いながら、息もあげずに訓練に付き合ってくれていたので、

その実力はやっぱり大変なものなのだろうと緑箋は思っていた。

何にしても訓練だけではまだまだその実力の底は計り知れないものがある。

それは緑箋も同じではあるが。


「じゃあ明日よろしくお願いします。

緑箋君が入隊してくれて私も本当に心強いわ。

一緒の部隊で頑張りましょう」


猫高橋はやっぱり笑顔で部屋を出ていった。

緑箋は笑顔あふれる素敵な人に囲まれていることの幸せを噛み締めていた。

明日の準備をして、少し早めに就寝した。

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