第237話 施設案内と訓練

食事を終えた二人は、また建物の中を歩く。

猫高橋が各の部屋を説明しながら、

中に入ってまた細かく説明してくれる。

あとで全体で説明があるとは思うが、

猫高橋は甲斐甲斐しく全ての部屋を詳しく説明してくれていた。

どうやらこういうことが好きな質なのだろう。

だから遼香の元で働いているのかもしれない。

実際どういう身分なのかは緑箋はまだ直接聞けていなかったが。


備品室で、猫高橋は緑箋の備品を受け取った。


「これが出来たてほやほやの隊服になります。

緑箋君は普通の手続きでは入ってこれなかったので、

まあそれは遼香さんの気まぐれってこともあるわけだけど、

それで意外と時間がなくってね。

隊服も今日になってしまったの。

でも一応は間に合ったからよかったということにしてほしいな」


猫高橋は笑いながら緑箋に隊服などの必要なものが入った袋を渡してくれた。


「一応中身の確認もしておきましょうか」


袋の中身を出しながら、確認していく。

隊服や下着、道具などを並べて確認していく。

緑箋は並んでいくものをみていると、

なんだかとても心が引き締まる思いだった。


「ちゃんと全部揃ってるね。

たまに抜けてたりするんだけど、

今回は大丈夫そう。

人はミスをするものだけど、

ミスをしたら命取りになるのが軍隊だからね」


猫高橋の明るさに逆に隠されてしまっていたが、

軍隊とはそういうところである。

緑箋も心のどこかで気が休まっていないのは、

そういうところがあるからだろう。


「何か質問はあるかな?」


「訓練室をもう一度見たいんですが」


「もちろん、いきましょう」


訓練室に入って、猫高橋は簡単に操作を教えてくれた。

基本的にはどこの訓練室も仕組みは変わらないようだった。

緑箋は猫高橋に一通り説明してもらって確認することができた。


「ありがとうございました。助かりました。

ここは今日使っても大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だと思うけど、何か訓練するの?」


「あ、日々の日課がありまして。

学校の時から毎日やるようにしてるんです。

一回崩れてしまうともう二度とやらないような気がしてしまって」


緑箋はもともと自分に甘すぎる怠惰な人間だったが、

一度決めたことを止めることができない人間でもあった。

何かの拍子にそれが途切れると、

再び動き出すことが難しいので、

日々の日課にしてしまって、

やるべきことを続けるようにしていたのだった。


「そうなのね、時間は一時間くらい?」


「毎日の日課はそれくらいです」


「じゃあ今やってもらって構わないよ。

今日は私も時間あるし、

緑箋君の訓練興味あるから見てみたいし」


「じゃあお言葉に甘えて、訓練やらせてもらいますね」


「もし私が必要ならいってね」


「ああ……じゃあ先にこれやりますんで、

そのあとお願いしてもいいですかね」


そういって二人は一緒に訓練を小一時間行った。


「緑箋君、こ、これ毎日やってるの?」


「はい、今日は明日のこともあるので軽めにしてみました」


「本当に?この訓練って、誰かに教わったの?」


「いや、独学ですね。

猫高橋さんもご存知の、咲耶さんと一緒に付き合ってもらって、

だんだん今の形になってきました。

最近は守熊田寮長にも訓練に付き合ってもらったので、

少しだけまた変化してきてますけど」


「ああ、守熊田さんは知る人ぞ知る、伝説になってる人だからなあ。

そっか、そんな人たちに教えてもらってきたんだね」


「そうなんです。ほんとに運がいいですよね」


「確かに運がいいって言えばいいのかもしれないけど、

これだけの量毎日やってる人なんて、

この軍にもいないかもしれないよ」


「ちょっと先輩としてかっこいいところみせようかと思ってたんだけど、

みっともないところ見せちゃったかもしれないなあ」


「そんなことないですよ、

付き合っていただいて感謝です」


「緑箋君。これ毎日やるつもりなんでしょ?」


「今のところはそうです。日々の訓練の厳しさにもよりますけどね」


「ああそっちの訓練ねえ……多分、大丈夫だと思う。

もし時間が合う時には、よかったら私も一緒に訓練させてもらえないかな?」


「もちろん大歓迎です。

一人だとサボってしまうこともあるので。

学校では咲耶さんが一緒に付き合ってくれて本当に助かりました」


「ありがとう、私もできるだけ付き合えるように頑張るね」


猫高橋は少しだけ圧倒されているようだった。

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