第236話 軍の食堂へ

寮の部屋の中にはベッドと机と棚がいくつかある程度で、

収納はそれなりにあるが、

殺風景な部屋だった。

学校の寮よりはやや広い程度で、

あとはそれほどの違いはなかった。

すでに荷物は部屋の中に届いていたが、

それほどの量もないので、

あっという間に片付いてしまった。

元の世界でも所有欲というのがほとんどなかったので、

必要最低限のものしかない今の生活は、

元の世界とほとんど一緒だった。

軍隊の寮ということで大部屋も覚悟はしていたが、

一人部屋だったことの方が重要だったので、

狭いとか広いとかはどうでもよかった。


テーブルには入隊のしおりという追加できるファイルの説明がされていて、

そのファイルには魔法軍の基本的な説明が書かれていた。

緑箋はこういう説明文を読むのが好きだったので、

時間まで説明を読もうかと思ったら、

ドアをノックされた。

ドアを開けると、玄関には猫高橋が待っていた。


「あら、もうあらかた片付きましたかね?」


「荷物もほとんどありませんから、

もう片付きました」


「そうですか、入隊のしおりがあったと思うんですが……」


「あ、今端末に入れました」


「よかった。それにも書いてあるのですが、

緑箋君はここの所属になりますので、

食事の前に簡単に説明させてもらいますね。

まあ入隊後にも説明はありますけどね」


「ありがとうございます」


「じゃあいきましょう」


猫高橋は寮の棟のすぐ前にある大きな建物に入っていった。


「ここは隊員だけが入れる建物になります。

訓練室、勉強室、図書室、食堂、お風呂、洗濯、売店、娯楽室、休憩室、

そういった隊員に必要な施設が揃っています。

正直いうとここだけで生活が賄えてしまいますね」


「流石に効率的にできてるんですね」


「まあ一応軍隊ですからね」


そう言いながら各施設の場所を猫高橋が簡単に説明してくれた。

そして食堂に着いた。


「ここが食堂です。

食事はもちろん無料です。

おかずは盛られていますので、好きなものを取っていってください。

ご飯と味噌汁なんかは自分でよそってください。

おかわりも自由ですからたくさん食べてください。

体力魔力が基本ですからね」


二人は肉や魚料理を取って席についた。

ご飯を食べながら話しをする。


「今日は日曜日なのと、

まだ時間が早いので隊員はほとんどいませんね。

まあ交代勤務になるので土日休みとは限りませんが、

一応は休みが多くなっています。

休日は外出したり実家に帰ったりする隊員も多いです」


「なるほど、そういうことなんですね」


「二十四時間勤務ですから、

いろんな日に勤務することになりますが、

初めのうちは基礎訓練が主になると思います」


「ずっと疑問だったんですが、

本部って京都じゃないんですか?

というかここはどこなんでしょうか」


「ああ、そうでした。

一番大事なことをお伝えしてませんね」


猫高橋は頭をこつんと自分で叩いてみせた。

時折軍人とは思えない可愛さをみせてくる。


「京都にあるのもあれも本部なんですが、

あれは表向きの本部ですね。

ここは裏の本部というか、本当の本部というところです。

まあ日本の軍事の中心ですので、

外からは非公開になっているわけです。

場所については秘匿されているというよりも、

次元が違う場所というのがいいかと思います」


「日本のどこかということではないんですね」


「そういうわけでもないんですよね。

魔法でしか移動できない場所でもないんです。

物理的に移動手段がないわけでもありませんし。

何かあった場合に困りますからね」


隔離世のような場所なのかとも思ったが、

どうやらそうでもないらしい。

日本の要であるから、そう簡単に落とされないようになっているのだろう。



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