第232話 始まりの三人

天翔彩が帰ってきた。


「あら、咲耶ちゃん、来てたのね。

ちょうど入れ違いになっちゃったのかな」


「そうみたいやね。

てんちゃんが出て行ったところやったみたい」


「なんか前もそんなことがあった気がするな」


「そうやで、もう一年前になるけど、

この三人が初めて揃った時もこんな感じやったね」


「まさか一年経って、こんなことになるとは想像もつかなかったなあ」


「ほんまやで。

なあ緑箋君」


二人に見つめられて緑箋はドギマギしてしまった。


「まあ確かに。一番驚いてるのは僕だからね」


「そう考えたら魔法歴一年やもんなあ。

それでこんなふうになれるなんて、

緑箋君の才能の賜物やな」


「それは違うよ咲耶さん」


緑箋は珍しくキッパリと言い切った。

咲耶は珍しい緑箋の物言いに少しだけびっくりしていた。


「才能っていうのはもちろんあるかもしれないけど

才能なんかだけでは僕は何もできなかったと思うよ。

僕の今があるのは、

天翔彩先生が僕を救ってくれて、

その後もたくさん指導していただいたからだし、

魔法のいろはを叩き込んでくれて、

ずっと一緒に訓練してくれた咲耶さんのおかげだし、

その他にもいろんな人との出会いが、

本当に僕の生きる糧になってくれたから、

今の僕があるんだよ。

だから本当に二人にも感謝です。

ありがとうございます」


緑箋は素直に自分の気持ちを伝えた。

前の世界では人といかに関わらないようにするかだけ、

ただそれだけを考えて生きてきたにも関わらず、

なぜか最後の最後に人を突き飛ばしてしまうということで、

自分の生涯の幕を閉じることになったのだが、

その結果、ご褒美なのかはわからないが、

今また新しい人生を貰って、

今こんなに素晴らしい人たちに出会えたということを、

緑箋は本当に感謝していた。

これが死に際に見えている夢だったとしても、

こんなに素晴らしい夢ならば別に構わないとさえ思っていた。


「緑箋君の言うとおりだな。

縁が複雑に絡み合って人は生きている。

緑箋君が素晴らしいと思ってくれたことは教師としてだけではなく、

一人の人間としてとても誇らしいことだと思っている。

ただ緑箋君の存在も、また多くの人に影響を与えていることは忘れないでほしい。

緑箋君に出会えてよかったと思っている人は、

今目の前の二人だけじゃない。

緑箋君が過ごしたこの一年間で起こした数々の出来事は、

この世界を変えるきっかけになるかもしれないくらい、

すごいことをやってのけたと私は思っている」


「緑箋君とずっと毎日のように一緒に訓練できて、

うちも本当に面白かったし、勉強させてもらったんやで。

教科書には書いてないような面白い発想力は、

うちの魔法の力にほんまに新しい風を吹かせてくれた。

だからうちも緑箋君にはほんまに感謝してる。

ありがとう」


二人のもったいない言葉に、

緑箋はただただありがとうございますというだけだった。

おそらく別の言葉を発した瞬間に、

緑箋の涙腺は崩壊してしまっていただろう。

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