第231話 初めての親友

天翔彩が出て行った部屋には静寂が訪れていた。

緑箋は部屋から外を眺める。

初めてこの世界の有り様を見た時と同じように、

遠くに大阪城が聳え立っている。

最近は見慣れた光景になっているが、

あの時の驚きは今も忘れていない。


そんなことを考えていると、

ガチャリと音を立てながら静かに扉が開いた。


「あのすみません。天翔彩先生はいらっしゃいますか?」


咲耶が聞く。


「先ほど出て行かれましたよ」


緑箋は答える。


「あのー、どこへ行ったとか、いつ頃帰ってくるとか、

そういうお話はされていましたでしょうか?」


「ええと、僕の関係の書類を作るとか出すとか行って出ていかれました。

また部屋に帰って来るとはいっていましたが、

どこへ行っていつ帰ってくるかはちょっとわかりません」


「そうですかー」


咲耶はそう言い終わると吹き出すように笑い出した。

緑箋もつられて笑ってしまった。


「緑箋君、めっちゃ覚えてるやん!」


「そりゃあれはもう一生忘れないと思うよ。

僕の初めて会った同年代の人だからね。

咲耶さんの方がよく覚えてたよ」


「そやなあ、なんでかわからへんけど、

あの日の光景はうちも忘れられへんねん」


「僕もそうだよ。

初めて会ったのがここだったもんね」


「もうあれから一年やねえ。

ほんまにいろんなことがあったわ。

一年があっという間やった」


「それは僕もおんなじだよ。

まさか咲耶さんとこんなに長いことお世話になってしまうなんて、

あの時は思いもしなかったけどね」


「それはお互い様やんか。

緑箋君のおかけでいろんなとこにも行けたし、

うちが生きてきた中で一番最高の一年にやったわ」


「そうだね、本当に楽しかったよ」


「うちも」


この一年を噛み締めて二人は少し静かに外を眺めていた。


「ねえ、緑箋君」


「どうしたの」


「これ、もらってくれへんかな」


咲耶は綺麗な和紙で包まれた何かを渡してくれた。


「あ、ありがとう。

中見てもいい?」


「もちろん、見てええで」


緑箋が包を開けると、

中には桜の形をした水引が表にある、

お守りが入っていた。


「すごい綺麗なお守りだね」


「せやねん、結構頑張ったって思わへん?」


「え?これもしかして咲耶さんの手作りなの?」


「せやで、結構いい出来かなって思ってんねん。

どうかな?」


「いやこれ、売り物じゃないんだ?

芸術作品って思うくらい、

すっごく綺麗で精巧に作られてるよ!」


緑箋はあまりの綺麗な桜の水引が、

咲耶の自作したものだと聞いて心から驚いていた。


「そんなに褒めてももう他には何もでーへんよ」


「いやいやお世辞じゃないから。

これ、ほんとに貰っていいの?」


「そりゃ緑箋君に作ったんやから、

貰ってもらわな困るで」


「そっか、ありがとう。

一生大切にするね。

こんなにすごいものもらっちゃったけど、

ごめんね、僕何にも用意してないや」


「ええねん。うちはまだ学生のままやからね。

これは緑箋君が新しい道に進むから作ったんやから。

お祝いやね」


「ありがとう。

じゃあ咲耶さん卒業する時には、

僕も何か贈るね」


「それは楽しみやなあ。

でもまだ二年あるけど。

まあ期待しないで待っとくね」


「大丈夫だよ。絶対に忘れないから」


二人が笑い合っていると、

扉が開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る