第230話 医療部の部屋へ

あっという間に中等生生活、最後の日を迎えた。

家具などの大型の荷物はもともと用意されていたものしかなく、

向こうでも家具は用意されているようなので、

大きな荷物は全くなかった。

基本的なものは全て向こうに送って、

残りはカバン一つで持っていけるだけのものになっていた。

この世界に来て一番長く過ごした部屋は、

荷物を片付けてもあまり変わらず、

いろんな場所に行った時に買って飾っていたお土産がなくなって、

少しだけがらんとした気分になったけれど、

ほとんど来た時と同じだった。


魔法でサッと掃除をすることもできるのだが、

緑箋は守熊田に雑巾と箒とバケツを借りた。

こっちでやっとくぞと言われたが、

お世話になった感謝はしっかり部屋にも伝えないといけないと思って、

自分の手で掃除をした。

確実に魔法でやった方が綺麗になると思うので、

単なる自分の満足感でしかないのだが。

掃除をすることは自分の心を清めることでもあるということを、

心のどこかに持っているのか、

やっぱり自分の体を使って掃除をするのも悪くない。

緑箋は人との付き合いはとても苦手だったが、

人ではないものとの付き合いは好きだった。

一人で生きてきた時間が多いということもあるが、

掃除や洗濯の類も好きな方だった。


結局小一時間かかって掃除を終わらせた。

綺麗になったかどうかはわからないが、

心を込めてお世話になった部屋にお礼をすることができた気がした。


緑箋は一礼して部屋を出る。

掃除道具を返した後、寮長室へ行く。


「寮長、ありがとうございました。

掃除用具は片付けておきました」


「そうか、もう行くんか?」


「はい、準備できました」


「そうか、寂しくなるな」


「寮長にも本当にお世話になりました」


「緑箋みたいな生徒は初めてやったからなあ。

まあわしも頼ませてもらったわ。

緑箋ならちゃんとやれるから心配すんな。

向こうでも頑張りや!」


「ありがとうございます。

たまには遊びにきますね」


「おう、いつでも来い、

楽しみにしてるわ」


寮長は玄関まで来て見送ってくれた。

緑箋は寮を出たあと学校に向かう。

最後の手続きを天翔彩がしてくれるのと、

挨拶をするためだ。

天翔彩のいる医療部の部屋の扉を叩く。


「先生、緑箋です」


「どうぞ、入って」


中から返事があったので、

緑箋は医療部の部屋に入った。


「お疲れ様。よく来たね。

そこに座って」


緑箋は椅子に座って部屋を見回す。

緑箋が初めてこの世界に来た時の光景が広がっていた。

この部屋がこの世界の緑箋の始まりの場所である。


「ファイルの方はもう向こうに送っておいたから、

こちらの基本的な手続きはもう終了している。

もう連絡は来ていると思うが、

向こうに行ったらこれを見せてくれ」


端末に証明書のようなものが送られてきた。


「それを見せればあとは向こうで手続きをしてくれると思う」


「はい、何から何までありがとうございました」


「これも私の仕事だからな。気にしなくていい。

まあ珍しい仕事だったので、また一つ勉強になったよ」


天翔彩はそう言いながら微笑んだ。

すると、天翔彩の端末に通信が入った。

天翔彩は端末を確認する。


「ああ、今か………。

ごめん緑箋君。

ちょっとだけ外してもいいかな?

呼び出されてしまってね」


「もちろんです。

そちらを優先してください」


「すまんね。すぐ帰ってくるから」


そういって天翔彩は部屋を急いで出て行った。

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