第233話 別れの時

「じゃあそろそろ行きますね」


緑箋は席を立った。


「もう行っちゃうの?」


「そろそろ時間だし、

待たせるのも悪いしね」


「そっか、やっぱり寂しくなるなあ」


「僕も寂しいよ。

でも自分で決めたことだからね。

しっかりやってくるよ」


「せやな。うちも応援してる

いつか………。

いや、緑箋君、ほんまに体だけは気をつけてな」


「うん、ありがとう。

咲耶さんも気をつけてね。

先生も、本当にありがとうございました」


「うん、いつでも遊びに来てくれ。

みんなも待ってると思うし。

まあちょくちょく連絡は入れるから、

返事は返してくれよ」


「もちろんです」


「うちもするからね」


「うん、楽しみにしてる」


緑箋の端末がなった。

迎えが来たようだった。


「あ、先生、最後に一つだけ教えてほしいんですけど」


「どうした?」


「あの、遼香さんとはどういう感じで付き合ったらいいでしょうか?」


「ああ、あれなあ。

まあ緑箋君も少しはわかってると思うが、

まあ本気でぶつかっていけばいいと思うよ。

ああ見えて意外と勘がいいから、

嘘はつかないように」


「ああ、わかりました。

嘘はこの一年で鍛えられましたから。

ね、咲耶さん」


「緑箋君、最近は隠し事せーへんもんね」


「いやーしても無駄な人が近くにいたから。

自然と素直になってしまったかもしれないね」


「それなら、その人も喜んでるん違うかな」


三人は笑った。


三人は一緒に学校の玄関を出る。

緑箋は振り返って一年間生活した校舎を感慨深く眺める。

心の中で学校に向かって感謝の言葉を伝えた。

門の外には猫高橋が直立不動で待ち構えていた。


「ご足労いただいてありがとうございます」


緑箋は頭を下げた。


「いえいえ、緑箋君。お迎えに上がれて光栄です。

お二人もお疲れ様です」


猫高橋は天翔彩と咲耶に対しても挨拶した。


「猫高橋さん、わざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます。

今後の緑箋君のことよろしくお願いします」


天翔彩はファイルを猫高橋に直接転送する。


「確かに受け取りました。

ありがとうございます。

手続きは終わっておりますのでご安心ください」


「猫高橋さん、緑箋君のことほんまにお願いしますね」


「はい、大丈夫ですよ。咲耶さん。

多分咲耶さんが心配しているよりも、

緑箋君は大丈夫だと思います。

私の方が気をつけないといけないかもしれないです」


猫高橋はコロコロと笑った。


「じゃあ本当に今までありがとうございました。

行ってきますね」


「ああ、気をつけて」


「緑箋君。私もいつか緑箋君に追いつけるように頑張るから、

緑箋君も頑張ってね」


「ありがとう」


緑箋は二人と固く握手を交わした。

咲耶はそのまま龗の頭を撫でると、

龗は気持ちよさそうな顔をしていた。


「龗も気をつけてな。

緑箋君を守ってあげてな」


咲耶は握手をしたまま龗を撫で続け、

なかなかその手を離さなかった。


「ここからはどうやっていくんですか?」


「まあちょっと特殊なので、ここからは私が案内します」


「特殊?」


「一応軍事機密ってやつです」


猫高橋は微笑んだ。


「頑張って、行ってらっしゃい」


「緑箋君、ほんまにありがとう」


「二人とも元気で、今までありがとうございました」


「ではお二人ともありがとうございました。

そろそろお暇します。

では緑箋君。少し力を抜いてくださいね」


猫高橋は二人に一礼した後、

緑箋の背中に手を置くと一言呟いた。


瞬天移空しゅんてんいくう


猫高橋と緑箋の姿は一瞬にしてそこから消えてしまった。

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