第212話 守熊田への報告

咲耶の部屋を出た緑箋は寮長室へ向かった。

寮長はちょうど部屋にいた。


「おー緑箋。

さっき遼香がここにも寄っていってくれてな。

話は聞いたで。

なんも悩まんと決めたって、

遼香が珍しく驚いとったわ。

どんな顔してたのかわしも見てみたかったわ」


守熊田は笑った。


「寮長にもたくさんお世話になりました」


「ああ、そやなあ。

ここに来たのもちょうど一年前やからな。

その時から緑箋とは話す機会が結構あったから、

わしも寂しいわ。

こっちに来て色々大変なことばっかりやったろうけど、

毎日毎日トレーニングしてる姿は見とったから、

その結果がこういうことになったってことや。

だからわしはなんも驚いてないで」


「寮長にもたくさん付き合っていただきましたね。

たくさんのことを教えていただきました。

軍にいたっていうのは最近知りましたけどね」


「まあ、そういう過去の栄光っちゅうのは言わないのが男やからな」


「軍の先輩として何かアドバイスはありますか?」


「もちろん規律は厳しい、

でもなその規律に囚われすぎずに、

自由にやったらええ。

緑箋ならそのいい塩梅がわかるはずや。

あとは実績を積め。

時に諦めなあかんことも戦場では出てくるやろう。

そんな場面でも緑箋ならできると思わせておけば、

お前のやりたいことができるようになるはずや。

常に前向きにやり続けて周りに認められておけば、

緑箋の案を取り入れてくれるはずやからな。

一歩ずつ地道に信頼を勝ち取っていけばいい」


信頼を得るというのは緑箋にとって一番難しい課題ではあるが、

自分ではなくみんなを守るための力を得るために、

守熊田の言葉は緑箋の胸に響いた。


「ありがとうございます。

胸に刻んでおきます」


「まあそんなに気ー負わずに、今まで通りにやったらええ。

確かに軍に入ったら大人も子供もないんやが、

それでもまだ緑箋は子供や。

自分の力を信じて、

周りの助けを借りて成長していったらええ。

軍の奴らも気のいい奴ばっかりやから、

きっと緑箋の力になってくれるはずやで

内部で喧嘩してる暇なんかあらへんからな」


「うまくいけばいいんですが」


「まあなるようにしからならへん。

心配したってやることは変わらへんからな。

落ち着いていけばええ」


「訓練はどうですか?」


「訓練なあ。

まあ魔法力の維持は確かに大変かもしれへん。

こればっかりは地道に訓練していくしかないんやが、

緑箋の魔力の使い方やったら平気かもしれへんなあ。

問題は魔力がない場所があったらどうなるかっちゅうことやねんけど、

地道に頑張って訓練するしかないかもなあ。

それでもこの一年で緑箋の基礎魔力自体はだいぶ上がっとるやろ?」


守熊田のいうとおり、

毎日とんでもない訓練をしているので、

緑箋自体が持つ魔力量もかなり上がっていた。


「それなりには伸びてると思います。

寮長にもたくさん付き合っていただきましたから」


「せやなあ。咲耶と三人で何度も訓練させられたわ。

ほんまに、こっちはもう老体やねんから。

でも、久しぶりに体を動かせておもろかったわ。

あんまりわしと訓練しようって思う寮生はおらへんかったからなあ」


見た目からそういうふうに思われるのかもしれないが、

緑箋は初日から二人で話していたので、

そういう壁が全くなかったのがよかったのかもしれない。


「せやなあ。そういうことももうなくなってまうんやなあ。

それは少し寂しい気はするな。

まあでもわしはいつでもここにいるから、

いつでも来たらええ。

たまには顔を出せよ!」


守熊田は少しだけ寂しそう顔をしたが、

すぐに元に戻って緑箋を元気づけてくれた。





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