第209話 緑箋の回答
「うちにっていうのは、
遼香さんの家に行くっていう話ではないですよね」
「もちろんそうだ。
魔法軍に入って欲しいというお願いだ」
「入る入らないの前に、
僕はまだ中等生ですけど、入るんですか?」
「私の推薦だから問題はない。
ただ入った後の周りの目が厳しいものになることはあるかもしれない。
もちろんその辺りの支援はしっかりさせてもらうし、
不当な問題が起きないように対処はする。
ただ訓練はかなり厳しいものになる。
中等生の体力や魔力では厳しいところはあるだろう。
ただそこはしっかり能力ごとに見させてもらっているので、
緑箋君だけ特別視するわけではないので安心してもらいたい」
遼香はいつになく真面目に話している。
「もちろん学生の時代というのは大切な時期で、
この時に出会った仲間と私も大切な絆を結んでいる。
たった十数年しかないかけがえのない時間を学生として過ごすことが、
どんなに重要で輝いている時代かということを、
私が一番わかっていると言ってもいいだろう。
でもそれを差し置いても、
今の魔法軍には力が欲しい。
最近の魔族の活発化の話は緑箋君も知っていると思うし、
何より直接戦って、撃退してくれているわけだから、
その経験値も計り知れないものがある。
だからこそ、今この時期に必要な戦力として、
緑箋君を迎え入れたいと思っている。
こちらの勝手な願いということはわかっている。
緑箋君の大事な時間を奪うことにもなりかねない。
でもそれでも私の立場として、
今できることをやらなくてはならないから、
今日はこんな話を言いにやってきたわけだ。
これは徴兵ではない。
緑箋君の一番したいように進んでもらって構わない。
断ってもらってもなんの問題もない。
もちろん受けてもらったら私は嬉しいんだがね」
「そうですか。わかりました。
少し時間をいただいてもいいでしょうか?」
「もちろんだ。
緑箋君の人生だからね。
これはしっかり考えてもらって構わない。
急かすようで悪いが、
4月前に決めてくれるとありがたい」
「わかりました。
お受けします」
「そうだな、ゆっくり考えて、
ええ!」
漫画のように遼香が驚く姿を見れて、
緑箋はほくそ笑んだ。
話を聞いた瞬間から、緑箋はもう話を受けることを決めていたのだが、
いつもやられっぱなしなので、今日は仕返しをしてみたかったのだ。
「遼香さん。
遼香さんの話を断れるわけもありませんし、
遼香さんに直接誘っていただけるなんてこんなに光栄なことはありません。
私がこの世界に来た意味もきっとここにあるんじゃないかと思っています。
どれだけできるかわかりませんが、
全身全霊をかけてこのお話をお受けいたします」
「すまないな、緑箋君。
ありがとう!」
そもそも緑箋はこの一年一組での一年間の生活を本当に楽しく過ごせていた。
だが逆に緑箋には眩しすぎる一年でもあった。
いつまでもこのまま過ごしていたい気持ちももちろんあったが、
多分人生の巡り合わせはこういった流れに身を任せて行った方がきっと上手くいく、
なぜだか緑箋はそう確信していた。
そして新たな舞台で自分の実力を試してみたいと最近思うことが多かったので、
今回はきっとその時が来たということなのだろうと素直に思えた。
「この春から第一近衛師団は東京へ配属地を変えることになった。
魔族との戦いが本格化しそうになっているので、
より魔族との距離が近い東京へ移動する。
その私の直属の部隊に緑箋君を招きたい。
私の部隊は飾りではないので、最も戦場に出る精鋭部隊になる。
是非力を貸してほしい」
「どこまでできるかわかりませんが、
ご期待に応えられるようにがんばります」
「詳しいことはまた後ほど。
緑箋君と同じ部隊で戦えることを嬉しく思うよ。
今日は本当にありがとう」
遼香はまた元のような笑顔になって、
嵐のように緑箋の元を去っていった。
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