第199話 鬼鬼から生き残れ!

「それでは酒呑童子様、皆々様、準備はいいでしょうか!」


茨木童子の声にみんなが沸く。

まずは酒呑童子から距離を取らなくてはならない。


「それでは鬼鬼開始します!酒呑童子様よろしく!」


わーっという歓声と共に鬼鬼が開始される。

酒呑童子はまず隣の茨木童子の肩を叩いた。


「ああーやられたー」


茨木童子の棒読みのセリフが響くと、

周りからはずるいーという声が飛ぶが、

開始一秒で鬼が倍になってしまった。


酒呑童子はぐわーとかうおーとか言いながら、

ゆっくり走ってみんなを追いかけていく。

子供たちはキャーキャーと悲鳴を上げながら、

蜘蛛の子を散らすように走って逃げていく。

鬼ごっことはいえ鬼は怖い。


そして茨木童子は瞬間的に移動して次々と白い服を赤くして、

仲間の鬼を増やしていた。

白だらけの集団が、

いつの間にか赤が目立つようになってきていた。

赤は赤を呼び、どんどんと白を駆逐していった。

まるで化け物に侵食されている様子を見ているようだったが、

着実に鬼は増え続けていた。

まあそれはそうで、鬼は退治されないので、増えていくだけなのである。

そしてその拡大力は加速度的に速度を増していく。


龍人は隠密の呪文を唱えていたが、

あまりにも鬼の数が多くなっていたために見つかったというよりも、

偶然に触られてしまった。


颯太郎は気配を消しながら、巧みに建物の周りを影にしながら、

素早く動いてまだ鬼にはなっていなかった。


幽璃は完全に気配を消していて。

まるで路傍の石のようになっていた。

すぐ近くまで鬼が来ていてもそれに気が付かないほど、

完全に石になりきっていた。


そのほかの薬学研究部の部員や天翔彩も早々に鬼になって、

今度は白い人たちを鬼にすることに躍起になっていた。


そんな中、緑箋もまだ見つかっていなかった。

緑箋はおとおふで音を立てず、

さらにみみえんの呪文で向こうからの視覚を遮断して

対象の姿を見えなくするスキルを使っていた。

これだけ多くの人の中で使うのは初めてだったので、

実験的な意味合いもあったのだが、

音も立てず、見えずに動けるので効果は絶大だった。

隠れて動けないわけではないので、

たまたま手をつかれてしまうという事故も少ないという利点もあった。


そう思っていた緑箋は辺りを見回しながら歩いていたのだが、

ふと背中に何かが当たったと思ったら、

服が赤く変わってしまった。

手を当てたのは咲耶だった。


「緑箋君やないか!

これで緑箋君もこっちの仲間やな!」


咲耶は嬉しそうに笑っている。


「咲耶さん僕のこと見えたの?」


「いや全く気づかへんかったで。

ただ何か通るかもっていう予感がしたんやで」


なるほど。

気配を消しても未来視には敵わないということだった。


「いやーもうちょっとだったのになあ」


「ごめんやで」


緑箋と咲耶は嬉しそうに笑い合った。

白い服の残りも少なくなっていた。

もう残りは十人をきっているようだった。

魔法で残存人数もわかるのが心強い。

誰が残っているのかまではお知らせされていないが、

どうやら、颯太郎と幽璃はまだ残っているようだった。


「緑箋君。寮長に教わったやつで見つけられへんの?」


「僕は生体探知は苦手なんだけど、

まあそうも言っていられないからなあ。

修行の一環としてやってみるよ」


そう言って緑箋はまた岩の中を透視したように、

光の玉を広間に飛ばした。

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