第198話 鬼鬼の準備

大勢が集まって何かをやるという雰囲気があたりに満ち始めていた。

緑箋はまた嫌な予感を感じざるを得なかった。

そんな心底嫌そうな緑箋の顔をみた、

隣の咲耶は少し笑った。


「きっと大丈夫やで緑箋君。

今日のは楽しいはずやから。

そんなに心配せんといて」


そう言って励ましてくれた。

広場の真ん中に立った茨木童子が周囲に向かって話し始める。


「さあ、今宵は特別な客人を招いた宴になっております。

ということで大江山で宴と言えば?」


周りの観衆に問いかける。


「鬼ごっこ!」


一斉に子供たちが大きな声で答える。


「そうです。鬼ごっこです。

今日は私たちの大切な客人と一緒に、

みんなで恒例の鬼ごっこで楽しみましょう」


茨木童子の大きな声よりも、

子供たちが大きな歓声をあげる。


「な?緑箋君。大丈夫やったやろ?」


何が大丈夫かわからないが、

戦いではないので緑箋は少しだけホッとしていた。


「今回やる鬼ごっこは、鬼鬼です。

ご存知ない方にも説明しますが、

この広場内だけで行います。

空中、地中、建物内へ入るのは禁止です。

周りの人を攻撃するような魔法の使用は禁止ですが、

その他の魔法やスキルの使用は認められています。

大きな鬼は、ある程度小さくなって参加します。

最初の鬼は酒呑童子様一人になります。

酒呑童子様は赤い服を着ています。

そして他の参加者の皆さんは服は白い服になります。

酒呑童子様に触られると鬼となって服が赤くなります。

赤い服の鬼に触られると、

白い服は赤くなってまた鬼になっていきます。

最終的に最後まで白い服のままだった人が勝ちとなります」


「最後まで鬼にならなかったらええっちゅうわけやね」


咲耶はとてもワクワクしているようだ。

そんな薬学研究部には隠密が得意な生徒がいる

颯太郎は忍者だし、

幽璃は狩人だし、

龍人も陰陽師として気配を断つことに長けている。


「これは腕の見せ所だね」


幽璃は結構乗り気である。


「三年生やからって花を持たせるわけにはいかんなあ」


颯太郎も忍者としての実力を見せつけなければと意気込んでいた。


「僕も頑張って最後の方まで残りたいな」


龍人もやる気を見せていた。

そして周りの子供たちは楽しそうにしているのはもちろん、

そこかしこにいる大人たちもいい感じに酔っているのもあって、

みんなやる気である。

確かにこういう遊びは本気でやるからこそ面白いというのはあるだろう。

あまりに子供に大人気ない態度を見せるのもどうかと思うけれど、

そういうところで理不尽を感じせ世界を知るということもあるだろう。

みんなはそれぞれに準備をし、

建物の影に隠れたりして開始を待っていた。

すでに戦闘準備は万端である。


               

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