第197話 巨大な鍋

一行を乗せた鉱石車は城の中を通らずに、

そのまま外へ出ていく。

すると城の前にはもう大勢の人々がみんなを待ち構えていた。

その中には大きな鍋がいくつも並んでいて、

大きな鬼が鍋を混ぜていた。

あまりの光景に一行は驚いていたが、

緑箋だけはその光景を見ることができず、

車の床を眺めることだけに集中していた。


地上に降りた一行は集まった広間の真ん中に案内される。


「流石にこれも豪華すぎやしませんか?」


日万里は恐縮しまくっている。


「いいんです。

みんな騒ぐ理由が欲しいだけなんです。

今日はそのいい機会なんですよ。

私たちの方が来ていただいて嬉しい限りです」


茨木童子は笑った。

一行の目の前には食事の準備が揃っており、

最後に鍋から熱々の具が入った大きなお椀が置かれていった。

そして他のみんなの食事の準備も終わったようだった。

それを見て酒呑童子が立ち上がった。


「さあ皆のもの、

今日は大事な客人が来てくれたぞ!

さあ飲み物を持て!」


みんなが飲み物を片手に持つ。


「では客人の未来に幸多からんことを祈って!

乾杯!」


かんぱーいと大きな声が轟くと、

みんなが杯を重ねていく。


「いやーほんまに美味しそうだね」


緑箋の隣の龍人も嬉しそうである。

咲耶はもうハフハフ言いながら夢中で食べている。

須勢理はそれを見てうっとりしている。

龗も専用のお椀に準備されたものを食べている。

龗は熱いものはそれほど苦手ではない。

火も吐けるからかも知れない。


酒呑童子が緑箋の前にやってきて座った。

料理をこぼさないように、

そーっと座ったのが少し面白かった。


「どうだ緑箋食べておるか?」


「巨大すぎる鍋に具がたっぷり入ってるから、

味に深みがありすぎて本当に美味しいです」


「そうだろうそうだろう、うちの自慢の鍋だからな。

肉だけじゃなくて野菜もたっぷりじゃ。

遠慮しないで、余らないように鍋全部食べていけよ!」


酒呑童子も楽しそうである。

そして天翔彩を見つけると酒を薦める


「ささ、先生、これを一杯」


「いや、私は……」


天翔彩に固辞させないように酒を傾ける。


「ああ………ありがとうございます……」


天翔彩は仕方なさそうに、でもどこか嬉しそうにお酒を注いでもらった。


「これは大江山といって、ここで作られておるお酒じゃ。

口に合うかわかりませんが、

ぜひ飲んでいってください」


そう言って酒呑童子は残りの酒を飲み干した。

やっぱり宴会が大好きなようである。


さて。

この世界の大江山とは関係がないが、

前の世界には大江山というお酒が本当に存在する。

大江山大吟醸はキリッとスッキリした香り高い辛口で飲みやすく、

食事にもよく合うお酒である。

この世界のお酒とは少し違う味わいだが、

奥能登で作られていた大江山を、

緑箋も何度か飲んだことがあったので、

そのことを懐かしく思い出していた。

また飲めるようになるなら飲みたいなと思っていた。


みんなは料理に舌鼓を打ち、

素直に食事を楽しんだ。


そしてもちろん素直に食事を楽しんだだけで終わるはずもなく。

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