第191話 岩の中

鉱石車に乗って坑道を下っていく。

上の坑道とは違って、

こちらの坑道は人間の標準的な坑道の大きさである。

それでも鉱石車は通れるくらいの道幅は確保されているようだ。

かなり下った先に分かれ道がある。

茨木童子は魔法で小さくなって鉱石車に乗り込んでおり、

しっかり解説してくれる。


「このまま奥へ行くのが本道なんですが、

この分かれ道の方で、あの石が発見されたんです。

もともと小さい穴が空いていたんですが、

そこを土蜘蛛の子供が入っていったみたいで、

子供が通れるくらいの穴なんですが、

その奥であの石を見つけたので、

今この辺りを掘って道を作ってとやっております」


本道よりは狭い道を進んでいくと、

奥は少し大きな広間になって行き止まりになっている。

ここが今の最前線のようだ。


「ここにも奥へ続くような穴が空いているんですが、

一応調査しながらということで少しずつ掘り進んでおります。

魔法探知をすると確かに今までとは違う反応があるようなので、

もしかしたら大きな鉱脈が見つかるかもしれないという期待はあります」


「幽璃さん、魔法探知できますか?」


「いやー鉱物か、まあできないことはないけど、

私は動物専門だからなあ。

まあちょっとやってみるけど、期待はしないで」


幽璃は印を組んで集中し始めた。

緑箋は咲耶にも尋ねる。


「咲耶さんはどう?」


「ウチも探知はあんま得意な方じゃないねん。

何か起こるとかって方なら得意やねんけどなあ。

それよりも緑箋君。

あれやってみたらええんやないの?」


そんな話をしていたら、幽璃は印を解いた。


「どうでした?」


「生き物はいないね。

石の特別な魔力の違いはわからなかった。

だって、石だらけだから」


確かにその通りである。

まあ単純に言えば魔法探知は跳ね返りの違いを知覚するわけで、

これだけ岩の塊だらけになると、

常に跳ね返りがあるということになり、

なかなか強弱を把握するのは難しい。

距離が離れれば離れるほどそれは困難になる。

動くものであればやはり感知しやすいが、

動かないものを、あそこに敵が潜んでいる!と感知するのはかなり難しい。


ということで緑箋は最近この魔法探知について訓練を行なっていた。

それは正月の大戦争において、

守熊田の守り方に感銘を受けたからだ。

守熊田は戦場の全てを自分の経験と感覚で把握する能力が尋常ではなかった。

今すぐそれを緑箋がやろうと思ってもそれは不可能である。

緑箋にはあまりにも経験が足りなかったので、

魔法の力で補うということもできなかった。


緑箋は最近トレーニングルームで、

日々魔力を感知する練習を行なっていた。

自分が打った魔力の跳ね返りを常に感じて、

どこに何があるかというのを把握するだけである。

しかしものであっても魔力の跳ね返りがあるので、

それを把握することが難しかった。

なので単純に考えて、

魔力を飛ばす場所と感知する場所を増やす作戦に出た。

つまり魔法でビーコンのようなものを作ってそれを多角的に配置するのだ。

攻撃するわけではないので、魔力もそれほどかからないし、

消滅されたとしても痛くも痒くもない。

ただ魔力を発して受け取っているだけだからだ。


大山田に聞いて、この辺りの調査結果を教えてもらうと、

前方の小さな穴の奥を進んでいくと、

今いる場所よりは小さい空間があると思われるそうだった。

その奥のことはまだよくわかっていないそうだ。


「わかりました。じゃあちょっとその奥の方を調べてみます。

あまり期待はしないでくださいね」


緑箋は左の手のひらを上にして、集中すると、

光の玉を前方にいくつも射出した。

それは岩の中へ広がって飛んでいった。

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