第189話 鉱山一周の旅へ

時間になり茨木童子が迎えに来た。


「本日は鉱山を一周してご紹介したいと思います。

転送でも移動できるのですが、

鉱山の長さを感じていただきたいのと、

最終合宿ということで楽しんでいただきたいということもありますので、

この鉱山車に乗って旅行するように楽しんでいただけたらと思います」


緑箋は内心嫌な予感もしていたが、

今日の主役は三年生なので何も言わずに静かにそれに従った。

咲耶や須勢理はもちろんだが、

意外と幽璃も楽しそうにしていた。

自然の中で長く過ごしているからか、

逆にこういう人為的なものが楽しいのかもしれない。


「いやーほんとこういう乗り物面白いなあ。

わくわくするね」


そういう幽璃をみて、

緑箋は普通に面白いものが好きなだけかもしれないと思った。


まずは鉱山の奥の方へ進んでいく。

手作業で掘るという鉱山はとてつもなく大変だが、

こちらは魔法で小規模に爆発させたりできるので、

意外と簡単である。

もちろん有毒なものもあるのでしっかり危機管理をしなくてはならないし、

魔法範囲の設定も難しいことではあるのだが、

掘ることに比べたらなんということはない。


大江山の鉱山では鉄やニッケルがよく算出されている。

元の世界でいうとニッケルは合金としてよく使われる素材で、

一番親しみが高いのは硬貨だろう。

白銅が有名な使われ方でメッキなどで使われている。

また耐食性や耐久性に優れているので、

キッチン用品、フライパンや鍋に使われている。


ニッケルを見て日万里は相変わらず目を光らせている。

岩を持ってあらゆる方向から眺めている。

ニッケルについて説明を聞くと、


「これは加工したら用途がいろいろありそうですね」


金光も目を光らせていた。

金光は商人の家系なので、金の話に目がない。

大江山の産業構造に興味津々のようだ。


岩の仕分けなども魔法で簡単にできるようで、

かなり作業は楽そうである。


一行はさらに奥へ進み、

以前土蜘蛛たちが住んでいた鉱山の方へ進んでいく。

鉄鉱山とは色が変わって、

少し幻想的でもある。


「綺麗ね。キラキラ光ってる岩もあるみたいね」


「ほんまに、何度来てもここは綺麗やなあ」


華蓮も咲耶もうっとりとしているようだ。


「本当にすごいですわね。こんなに綺麗だとは思いませんでしたわ。

緑箋君、なんで連れてきてくださらなかったの」


それは須勢理の予定の問題だったのだが、

それはもう忘れているようだった。


「ここは緑箋殿もご存知だと思いますが、

以前土蜘蛛が子供を産んだ場所でございます。

今はもうすっかり綺麗になって、大広間として改装してございます」


以前は蜘蛛の巣だらけだったが、

本当に綺麗に整備されている。


「そういえば、土蜘蛛はどうなりましたか?

無事に子供は生まれたんでしょうか?」


そういえば緑箋はあれから土蜘蛛がどうなったのか、

聞いていなかったのを思い出した。


「ふふふ、それは本人にお聞きください」


茨木童子がそういうや否や、

大広間の奥から子供達が駆け寄ってきた。

奥には僧と尼の格好をした二人がゆっくり歩いてきた。

日万里や幽璃や華蓮は子供達と戯れて楽しそうに遊んでいる。


「緑箋殿、お久しぶりでございます。

こちらが妻にございます」


「緑箋様、お初にお目にかかります。

あの時は本当にありがとうございました」


二人は土蜘蛛である。人間の姿というわけだ。


「いやいや、僕は何もしてませんから。

それにしてもこれみんなお二人のお子さんですか?」


「そうです。元気に育ってくれています。

住処も確保していただきましたので、

みんなで元気に過ごしております。

上の街にも毎日遊びに行って、

みんなで楽しく遊んでいただいているようです」


「そうですか、それは本当に良かった」


土蜘蛛たちも楽しそうに過ごしているようだった。

いや、楽しそうにしているのは、

薬学研究部の部員の方だったかもしれない。

子供よりも子供のように遊んでいた。

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