第188話 いざ最終合宿へ

休みを利用して、

天翔彩先生を含め、

薬学研究部員、全員揃っての最終合宿である。

大江山も快くみんなを受け入れてくれた。

今回は直接転送で行けないので、

各地で転送されていくことになる。

一度に飛べないだけで、

どんどん飛んでいくだけなので、

待ち時間がなければすぐ着いてしまう。


ちなみに前の世界で大阪から大江山へ行くには、

JR福知山線の福知山駅で京都丹後鉄道(前北近畿タンゴ鉄道)宮福線に乗り換え、大江駅からバスということになる。

二時間程度かかる。

大阪からかなり北の方に位置しており、

京都は実は南北にかなり長いというのを実感できる。

京都府以外が京都じゃないというイメージが強いからかもしれない。


大江山の鉱山の前まで飛んでいくと、

すでに鉱山の前には茨木童子が待っていた。


「ようこそいらっしゃいました。

お待ちしておりました」


時間通りとはいえ、茨木童子が直々に待っていてくれたようだ。


「本日は快く受け入れてくださって本当にありがとうございます。

薬学研究部顧問の天翔彩です」


「堅苦しい挨拶はやめましょう。

お正月も楽しく……ね」


天翔彩は暴れてはいないとはいえ、

相当酔っていたのも事実なので、苦笑いである。

みんなは揃って、


「よろしくお願いします」


と挨拶をした。


「大事な三年生を送る最後の合宿と聞いておりますので、

しっかりご案内させていただきます。

ゆっくり楽しんでいってください」


大きな門を潜って一行は鉱山の中に入っていった。

初めてきた生徒たちはその規模の大きさに驚いていた。


「緑箋君、すごいね。

話は聞いてたけど、こんなにすごいところだとは思ってなかったよ」


「本当に、一つの街があるみたいですわ」


龍人も須勢理も興奮していた。

確かに緑箋は一度経験しているので驚きはなかったし、

そもそも茨木童子の大きさだって驚くべきところなのだ。

緑箋はこの前も会っているのでその驚きもなかったのだが。


「まず、本日の宿泊施設をご案内します。

お荷物もそこでお預かりしますので」


茨木童子は鉱石車こうせきぐるまのようなものにみんなを乗せると、

そのまま先に進み始めた。

一体どこへいくのだろうかと思ったら、

入った先からまっすぐ先に向かう。

都大路のようなまっすぐな道の目の前には大きな天守閣が立っている。

鬼が住む居城なので、

その大きさは普通の天守閣の何倍もある。

まさに聳え立っているというのが適当な表現だろう。


「ほんまにすごい建物やで」


一度見たはずの颯太郎もまた驚いている

鉱石車はそのまま城の二階から中へ入っていく。


「ではこちらでございます」


「ちょっと待ってください。

今日の宿泊施設って……」


「もちろんこの鬼岩城でございます

緑箋殿の一行をおもてなしするのに、

ここ以外はあり得ませんので」


さも当然のように茨木童子は言いながら、

みんなを案内する。


「そもそもこの鬼岩城、部屋は腐るほどありますので。

どのお部屋を使っていただいても構わないのですが、

皆さんもそういうわけにもいかないでしょうから、

ご案内しているわけです」


城の中とは思えない大きな回廊に、

大小様々な部屋がある。

多くの種族が暮らしているので、

こういう構造になっているのだろう。

天守の下の階に当たる大きな部屋に案内された。

その部屋の中にも部屋があり、

個別の部屋に仕切られているようである。

真ん中は大きな応接間のようになっていて、

一度に会することもできるようになっていた。


「では三十分ほどのちにお迎えにあがりますので、

それまでお寛ぎください」


茨木童子は部屋を出て行った。

みんなは各々部屋を見渡しながら、

自分の好きな部屋を選んで荷物を置き、

応接間で談笑した。

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