第186話 三学期

三学期が始まった。

一年一組は全員揃って三学期を迎えることができた。


三学期となるとそれほど期間も長くなく、

行事も特にないので日々普通に過ぎていくだけだった。

しかしその中で最大の行事が待っている。

卒業式である。

一年生には直接関係はないが、

薬学研究部の先輩は卒業していってしまう。


この世界は基本的には公立の学校には好きなところに行けるようになっている。

私学はもちろん試験があるようだが、

受験制度というのはほとんどない。

子どもへの学習はすべて平等に、

誰でも受けられるようにするのが、

国のためであるという方針のようだ。

そして高等部でも大学部でもそれは変わらない。

得意不得意はあるにせよ、

魔法によって学習の効率を上げ、

より多くの体験をさせることによって、

ここの魅力を引き出すことを重点的に行なっている。

座学は確かに面白くないものも多いが、

それでも魔法というもの自体が面白いので、

生徒の興味が尽きないという面も大きいのであろう。


薬学研究部には三年生が三人いる。

部長の綾道修日万里あやどしょう ひまり

檜益田金光ひのきますだ かねみつ

影万事幽璃かげまんじゆうりの三人である。


部長にはもちろん、

他の二人にも一年生たちはたくさんのことを学んだ。

幽璃は姿自体見せないことが多かったが、

那須の一件以降結構緑箋とは仲良くしてくれるようになった。

たまに山に行く時は一緒に連れてってもらって、

狩りの仕方を学ぶことも多かった。

幽璃も結構一年生たちのことを気に入ってくれていたようである。


金光はその見た目通り沈着冷静で博識だった。

畑の世話の仕方などは丁寧に教えてくれた。

畑といっても魔法で簡単に水撒きや肥料を撒くことができてしまうし、

雑草だけを狙って抜くという緻密な魔法操作も巧みだった。


薬学研究部にとってはとても大事な人材がいなくなってしまうので、

そこはとても寂しかった。

卒業は別れるだけであって、

別に死別するわけではない。

顔を見せてくれることもあるだろうし、

会いに行きたかったら会いに行けばいいのだが、

そういう決め事なしに、

普段通りに生活していて当たり前にいた存在がいなくなるというのはとても寂しい。


日々の普段通りの生活の中で、

薬学研究部として三年生の活動の日々もどんどんと少なくなってきていた。

当たり前のような日々がいつまでも続くということはあまりない。

特に学生時代はあっという間に過ぎていく。

人と人との関係は目まぐるしく変わっていく。

そのことに渦中の人間はあまり気が付かない。

振り返った日々がとても大切なものだったと後から気がつくのだ。

だからこそ青春は甘酸っぱく、そしてとても輝いて見えるのである。


緑箋は一度青春時代というのを過ごしたはずだったが、

そんな体験をすることなく無意に過ごしてきてしまっていた。

それはこの世界にきて、

初めて青春というのがなんなのかということを身をもって体験していることを、

朧げながら感じている。

だが一度体験しているからこそ、

この時間がとても大切だということにも気がついている。

だからと言って、一分一秒を無駄なく過ごさないといけない、

そんなふうに生きられるほどの人間ではないが、

やっぱり大切な時間を大切に使いたいという思いは増してきているようだった。



そんな中で三年生がいる薬学研究部では、

最後の思い出作りの合宿の計画を練ることになった。

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