第185話 咲耶の追求の行方

自然と会話が弾み、

緑箋は頭の中を単純な思考にして、

楽しかった話をするすると続けることにした。

話してはいけないことを考えるのではなく、

話したいこと、伝えたことに重点を置いて素直に話すことで、

咲耶も自然に話を聞く体制になってきて、

楽しそうな話だなと素直に聞けるようになって来ていた。

もちろんそこに自分がいないことの寂しさ悔しさも持っていることは、

全く隠そうともしていなかった。


「じゃあ四人で歳を越したんやね?」


「いやそうじゃないんだよ。

遼香さん、実は大江山と熊野からも呼んでてね」


「え?ほんまに?」


「そうなんだよ。

熊野の牛鬼と熊野坊たちとか、

大江山の酒呑童子とか土蜘蛛たちも呼んでたみたいでね。

年明け前にやってきて、

そのみんなもいろんなお土産を持って来てくれたんだよ。

最近食堂で出てる献立の食材はその時の差し入れが多いんだよ。

お餅とかいっぱい持って来てくれたんだ。

もちろんお酒もだけど」


「うわー、勢揃いやんか。

うちも一緒に盛り上がりたかったわー」


咲耶は心底悔しそうな顔をしている。

緑箋箱の時、意図せずに他の妖怪たちのこと、

特に新規に出会った大獄丸のことを話さなかったのだが、

あまりにも他のことに興味が湧きすぎていたため、

咲耶はそのことに全く気が付いていなかった。

不幸中の幸いである。


「どうも遼香さんはみんなで盛り上がりたかったみたいだね。

それでみんなでお酒を飲んで大宴会が始まったんだ。

年越しの瞬間をみんなで一緒にお祝いして、

朝になったら初日の出をここの屋上で見たんだよ。

すごく晴れてて雲ひとつない天気だったから、

初日の出がすごく綺麗だったんだ」


「やっぱり、うちに連絡して欲しかったなあ」


咲耶はさらに悔しそうな顔をしている。


「その後、僕と寮長で作ったおせちを振る舞ったんだよ」


「え?二人で作ったん?」


「暇だったからね。

でも寮長がどこかにも振る舞うとか言って、

結構な量を作ったんだけど、

結局大勢きたから全部朝のうちでなくなっちゃったんだよ」


「えーうち、食べてへんよ」


初日になくなったので、寮で食べてるのは二人だけである。


「他のみんなも結構な量のおせちを持って来てくれてたんだけど、

それもなくなっちゃったなあ。

まあよく食べるのが多かったからね」


鬼の胃袋は無尽蔵だった。


「羨ましいなあ」


「それでご飯も食べてお腹いっぱいになって、

みんなお酒も飲んでたし、

ここで寝る前に帰ってお開きになったんだよ。

遼香さんはあれだけお酒を飲んでたのに、

全然まだまだいけそうだったけどね。

また会おうって言われたから、

また何か企んでいるのかもしれないけど、

遼香さんが一番楽しそうにしてたかもしれないね」


「ああーもうめっちゃ悔しい。

もう来年、いや今年の年末は帰らへんからね」


今年は始まったばかりだというのに、

咲耶はもう年末の計画を立ててしまったようだ。


「いや、年末はご家族で過ごした方がいいって」


「いやや、うちも来年はみんなで騒ぎたい!」


駄々っ子である。

でもそんな未来が来たらいいなと緑箋も思っていた。

そして上手に話を回避できたことに安堵していた。


緑箋たちは咲耶の正月の話を聞きながら、

咲耶の持って来てくれたお土産を食べて、

楽しく談笑した。

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