第184話 咲耶の追求

普段の緑箋ならば隠し事をせずに、

咲耶にはすんなり話したいと思ったところだが、

ここには他の生徒たちもいるし、

今は注目もされてしまっている。

別に話すのを禁止されていたわけではないし、

極秘事項と言われているわけでもないのだが、

だからと言ってここで大々的に話してしまって、

もし拡散されてしまったら、

あまりいい話でもないような気もしてきた。


とはいえ、やはり咲耶には嘘はつけない。

そこで緑箋は覚悟を決めた。

嘘はつかない。

聞かれたことに正直に答える。

聞かれていないことはこちらから詳しく答えない。

この決まりごとに沿って話をすることにした。

そしてざっくりとした質問が飛んでこないように、

上手に話を誘導、

ではなく、話を進めていけるようにしようと考えていた。


「ええと、寮長と寮で二人だけだったから、

大晦日の夜に二人でご飯を食べて、

その後年越しそばの準備をしてたんだ。

そしたらその時に遼香さんと天翔彩先生が二人でやって来たんだよ」


「二人はなんできたん?」


「そのあたりはよくわからないんだけど、

遼香さんが天翔彩先生に連絡を取ったみたいで、

僕だけ寮にいるっていう話を聞いて、

じゃあ遊びに行くってなったらしいよ」


「まあ確かに、

遼香ちゃんならそういう感じかもしれへんな。

ほんまに自由人やもん。

自由人なのに、大将っていうのも変やけどな。

遼香ちゃんは遼香ちゃんなりに思うとこがあんねやろうなあ」


「そうみたいだね。

せっかく休みがあるっていうので、

どこか探してて、

たまたま寮に行こうって思ったのかもしれないね。

天翔彩先生と遼香さんは軍の同期だったらしくて、

前に京都へ行った時に再会して、

もしかしたら連絡を取り合っていたのかもしれないね」


「なるほどなあ。

京都の時も知り合いみたいな感じやったけど、

同期やったんやなあ。

そんで遊びに来て、緑箋君のところに来ようって思ったんかな。

まあ確かに遼香ちゃんならあり得る話や」


「突然来たからびっくりしたんだけど、

いっぱいお酒とかおつまみとか持って来ててね。

で、ちょうど年越しそばの準備もしてたから、

みんなで年越しそばを食べて年越ししたんだよ」


「ちょうどいい時に二人は来たんやね」


「そうなんだよ。

寮長とずっと一緒だったから、

二人で年越しするっていうよりも、

大勢で年越しできた方が楽しいから、

二人が来てくれた方が良かったよ」


「なんや、寂しかったんやったら、

やっぱりうちも行きたかったなあ」


「いやいや、咲耶さんはしっかり家族で楽しんだ方が絶対良かったと思うよ。

ご両親にも会えてなかっただろうしね」


「まあせやねんけどなあ。

両親には別にいつでも会えるけど、

遼香ちゃんにはなかなか会われへんで」


それは確かにその通りである。

何度もいうが、

なぜ遼香が年越しをこの寮で過ごそうと思ったのかは、

緑箋にもいまだに意味がわかっていない。

結果として大勢のものが集まったことは、

とても有意義であったのは間違いないのだが、

それを遼香が見越していたのかは、遼香のみぞ知ることである。

遼香のことなので、計算通りのような気もするし、

本当に何も考えていないような気もしてしまう。

不思議な人である。

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