第183話 咲耶の帰寮
「緑箋君!」
咲耶はすごい剣幕である。
緑箋は何かやったかなと思いながらも、
久しぶりに帰ってきた咲耶に挨拶をした。
「咲耶さん、おかえり。
明けましておめでとう」
「せやな、明けましておめでとう。
あとこれはお土産や」
咲耶は東京の両親のところに帰っていたようで、
東京のお土産をたくさん買って来てくれた。
雷おこしや人形焼などの見慣れたお土産の中に、
とても洋風なものがあった。
「今な東京ではケーキが流行ってんねん。
これはちゃんと日持ちする魔法がかかってんねん。
結構ふわふわで美味しいと思うで」
苺が乗って生クリームがたっぷりのホールケーキである。
魔法によって真空パックされているようになってるらしく、
抗菌されているので腐らない。
願いはなんでも魔法で叶ってしまうのである。
「ありがとう、おいしそうだね。
あとでみんなで食べよう」
「うん、そうして。
で、まあそれはええねん。
緑箋君!
うちに何か言わなあかんことがあるやろう?」
「言わなあかんこと?」
緑箋はのんびり春休みをしていただけで、
特に特別なことはしていないはずだった。
「いや別に普通に休んでただけだけど……。
寮長とご飯作ってたってこと?」
「いやまあそれは知らへんかったけど。
そうやないねん。
何もせんかったってことはないやろう?
お正月何してたん?」
「お正月?
お正月はみんなで宴会みたくなったけど……」
「それや!
そのことを聞いてんねん。
宴会って誰が来てん?」
「ああ……、えっと、天翔彩先生に遼香さんに……」
「ほら!遼香ちゃん来てたんやってな!
なんでうちに連絡くれへんかったの?」
「いやまあそう言われましても……。
咲耶さん実家に帰ってたんでしょ」
「そんなん関係あらへん。
ここに遼香ちゃんきてるっていうなら、
すぐ飛んできたっちゅうねん」
咲耶の剣幕に周りの生徒たちもざわついている。
そして遼香という名前が、
あの桜風鈴遼香のことだということに段々と周りも気がついてきて、
さらに驚きが広がっていった。
「いやいや、お正月なんだから、
ご家族でゆっくりした方がいいよ。
それに急に来たから僕もびっくりしてそれどころじゃなかったし」
「そういうことやない。
こんな大切なことはちゃんと連絡してくれなあかんで!」
なぜかわからないが咲耶は遼香にとても会いたかったようだ。
まあ確かに日本の最高戦力の一人がなぜここにいたのかはいまだに理解できない。
遼香に会いたいという人はたくさんいるだろうから、
その気持ちはわからなくもない。
「それで遼香ちゃんと何したん?」
「遼香さんはお酒を飲んで楽しくお話ししてたよ」
「あの遼香ちゃんがそれだけで済むわけあらへん!」
流石に咲耶は鋭い。
咲耶は自分のスキルのこともあるが、
洞察力が強過ぎるので、
嘘は通用しない。
とはいえ、もし日本大戦争を行ったことを知ったら、
咲耶がどうなってしまうのか、
ということを考えると、
緑箋はどこまで話すべきか、
非常に慎重に考えなければならなくなってきた。
ここは運命の分かれ目である。
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