第178話 火の玉
大嶽丸を退場させた緑箋が遼香の方を見ると、
遼香は酒呑童子と茨木童子と二人を相手にして戦っていた。
牛鬼はすでに退場していたようだ。
玉藻前が後方で酒呑童子と茨木童子の支援していたが、
幻惑系の魔法は全て天翔彩が防いでいる様だった。
遼香はこれだけ近づいているので、
酒呑童子も茨木童子も距離を計れず、
やはり肉弾戦となっている。
魔法世界において肉弾戦というのはもっとも友好的な戦闘の一つではある。
なぜならその戦い方を想定しているものが少ないからだ。
わざわざ遠距離から攻撃し放題にも関わらず、
近づいて攻撃する必要がない。
接近する時に攻撃されてしまう危険性の方が高いし、
結界によって近づけないこともままある。
また味方の援護を受けにくくなるという面もあるし、
いつまでも敵の回復魔法を受け続けてしまうということもある。
だがその危険を振り切って敵に張り付いてしまえば、
あとは個人の戦いに持ち込むことができやすいのも事実である。
しかも力の差というのは魔法でなんとでもなってしまう。
通常の状態で遼香と酒呑童子の力の差はとんでもないものがあるだろうが、
魔法で底上げされた力の差はむしろ遼香の方が上になる。
しかも自身の力のみならず、
天翔彩の強化魔法と、守熊田の防御魔法が加わっている。
動きも早くなっているため、
速度が乗った力はより強固になる。
さらにいえば、
遼香は攻撃が当たる瞬間に魔法を射出している。
向こうも強化魔法を使っているのでよろけるくらいになっているが、
もし何もしていなければ、
拳が当たったところは消し飛んでいるだろう。
物理攻撃に魔力を乗せて攻撃しているので、
防御結界は紙のように壊れていく。
酒呑童子は力、茨木童子は速さで遼香を攻撃しているが、
そのどちらも遼香の方が上回っているようで、
敵の攻撃に合わせて拳を振り、蹴りを入れていくだけで、
どんどんと酒呑童子と茨木童子の体力が削られている。
そこを凌いでいるのは玉藻前の魔力であった。
玉藻前は基本的にな攻撃魔力は高くないが、
魅惑や幻惑や毒などの攻撃は厄介である。
しかし今回はその全てを天翔彩と守熊田によって封印されているような状態で、
玉藻前は魔力を回復に特化して使用しているようだ。
玉藻前は九尾の狐であり、
九尾の狐は妖怪として名が高くなってしまってはいるが、
もともとは瑞獣である。
攻撃以外の能力の方が高いのである。
ということで緑箋は玉藻前に狙いをつけた。
遼香たちが戦っているところを避けるようにして移動し、
玉藻前だけを狙える位置をとる。
緑箋がファイアボールを一発打つと、
玉藻前は炎でそれを吸収する。
狐火である。
「私に火で攻撃とはね」
そういって玉藻前は九つの尻尾を背後に出現させる。
そしてその尻尾から次々に狐火を飛ばしてくる。
もちろんそれは全て守熊田が防御壁で消しとばして行く。
緑箋はそのままファイアボールを打ち続ける。
玉藻前はそれを吸収して炎がどんどんと大きくなっていく。
「だから火の攻撃は効かないのよ」
しかし緑箋は炎を打ち続ける。
緑箋のファイアボールを吸収し続けている狐火は、
どんどんと大きくなって行く。
もう小さな太陽のように燃え盛る火の玉が出来上がっていた。
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