第176話 宴の終わりに

おせちも食べ終わりみんなが落ち着いてきたところで、

そろそろお開きにしようという雰囲気を緑箋は感じていた。

そもそももう眠いし。

そんな感じで遼香の方を見ると、

緑箋と目が合った。

遼香はわかってるというように大きく頷く。


「さあ、もうみんなも楽しんだだろう?

じゃあ最後にやろうか」


やろうか?

緑箋は耳を疑った。

やろうかに漢字をつけるとしたら、

おそらく殺ろうということになるのではないかとピンと来てしまった。

遼香は笑っている。

酒が入っているからではないだろう。

そして周りのみんなはさも当たり前のように立ち上がって、

腕をぐるぐる回したりしている。

そうかみんなが最後に何か戦って終わるのだなと、

でも緑箋は自分は関係ないと思い込もうとした。


「今回は二つの組に分かれよう。

人間と妖怪で大戦争だ!」


いやいやいやいや、人数が違いすぎやしませんか?

緑箋は気が付かれないように隅に逃げようとしたが、

守熊田が腕を掴んで離さない。


「僕は調子が……」


「一番ええはずや。

酒も一滴も飲んでないんやからな!」


それはその通りではある。


「いやいや、寮長、

僕は見学しておきますよ」


「何をいうてんねん。

人数が全然足らへんねん。

主力が抜けたら勝てへんやろ!」


緑箋が主力とは思えないが、それもその通りではある。


人間の組は、

緑箋、遼香、天翔彩、守熊田、土蜘蛛族だけである。

十名に満たない。


その他の組は、

酒呑童子、茨木童子、大嶽丸、玉藻前、牛鬼、熊野坊、

そして鬼と天狗たちである。

二十名程度だろう。


「これで勝負になるんですか?」


緑箋は守熊田に聞いてみた。


「せやなあ、確かにちょっと足りへんかもしれんなあ」


「そうでしょう。倍いるんですから、

こっちが不利じゃありませんか?」


そう話していると遼香が割り込んできた。


「逆、逆、緑箋君。

土蜘蛛たちは向こうに行ってもらうことにするよ」


「それでもまだ足りへんかもしれんなあ」


守熊田は不敵にもそんなことを言い続けている。


「まあ、これくらいでいいだろう。

時間もないしな。

なあ、これでいいだろう?」


遼香が向こうに聞くと、

まあ仕方ないかというような感じで受け入れていた。


「先生、本当に大丈夫なんでしょうか?」


緑箋はこの中で一人だけ頼りになりそうな天翔彩に聞いた。


「そうだなあ。ちょっと楽勝かもしれないなあ」


まさか先生までそんなことを言うとは思わなかった。


「向こうは日本の大妖怪が勢揃いですよ?」


「それはそうだが、緑箋君。

こっちは日本の最大戦力が勢揃いだよ?」


天翔彩はお酒が入っていることもあるのだろうが、

珍しく自信満々であった。

確かに遼香の魔力の凄さは知ってはいるが、

他の人の力はまだ知らない。

だが天翔彩はすでにその力を把握しているのだ。

なのでその戦力分析はもしかしたら正当なものなのかもしれない。


大きめのトレーニングルームに移動する。

広大な平原を用意し、

そこに二手に分かれて戦闘を行うことになった。

一定以上の体力を失うと戦闘不能として外に出されることになる。


向こうの鬼たちはもうやる気に満ちている。

もちろんこっちの鬼たちもやる気である。


「あのー作戦は?」


「ああそうだな、緑箋君は初めてだもんな。

先輩作戦を教えてあげてください」


遼香が守熊田に話を繋いだ。


「緑箋は遼香は前にでろ。

やりたいように攻撃をしたらええ。

天翔彩はわしの後ろで回復。

以上だ」


「防御は?」


「お前らに攻撃は当たらへん」


「さあ、やろうか」


「行きましょう」


相変わらず、緑箋以外の三人は普通に受け入れている。


準備は整った。

緑箋以外は。


しかし試合開始である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る