第175話 餅つき

ひとしきりみんなで初日の出を楽しんだ後、

寒い寒いと言いながら、寮の中に入っていった。


緑箋はそろそろお開きかと思っていたが、

茨木童子が何やら準備を始めた。


「じゃあお正月ということで準備させてもらいます」


広間に巨大な臼が三つ置かれた。

そしていつの間にか大抵た餅米がその臼に投下される。

そしてまたまた巨大な杵が準備される。

持つのは酒呑童子、大嶽丸、そして緑箋である。


「いや、ここは牛鬼さんでしょ?」


「主役はお前じゃからなあ」


牛鬼はそういって緑箋に杵を渡す。

流石にそのままでは重すぎるので、

軽量化の魔法をかけておく。

酒呑童子のところには茨木童子が、

大嶽丸には玉藻前が、

そして緑箋には遼香が脇についた。


「じゃあいくか!」


酒呑童子の掛け声で餅つきが始まる。

圧倒的な力で大嶽丸と酒呑童子の臼が壊れないか心配になるくらいだった。

緑箋は初めての餅つきに苦戦している。


「ほら緑箋君、しっかり腰を入れて!」


遼香から檄が飛ぶ。

緑箋の打ち込みに合わせて、遼香は綺麗に餅をひっくり返す。

次第とコツを掴んできた緑箋は、

遼香と絶妙な連携を見せ、

見事に餅つきを続けてくる。

遼香は調子に乗ってどんどんとスピードを上げていく。


「緑箋君、もっといい感じに、

そうそう速さを合わせて!」


「いやいや、遼香さん速すぎですって!」


緑箋は必死に餅をつく。

それ以上に遼香は餅をひっくり返す。

しかしこの連携が見事に決まって、

緑箋たちの餅も綺麗に仕上がった。

もちろん酒呑童子と大嶽丸の餅も大量に出来上がった。


その餅をみんなで手分けして丸める。

その間に天翔彩と守熊田たちは雑煮の準備を終わらせている。

人参や里芋が入った白味噌のお雑煮である。

丸められた餅をお椀に入れていき、雑煮が次々に完成していく。


「さあ、冷める前にどんどん食べてや!」


寮長として食堂の切り盛りをしているのでこんなことはお手のものである。

そしてすでに作ってあったおせちもどんどんと並べられていく。

あっという間に酒宴が正月料理に早替わりである。


緑箋もお雑煮を一口啜る。

白味噌の優しさとお出汁が合わさって深い味わい深い雑煮になっていた。

そしてつきたてのお餅を食べる。

柔らかくてそれでいてしっかり食べ応えがある餅は最高に美味しかった。

そりゃ日本で最高の力を持つ鬼がついた餅なのだから、

もう日本一の餅と言っても過言ではないだろう。


「先生、めちゃくちゃ美味しいです。

関西風のお雑煮初めて食べましたけど、

優しくていいですね」


「そうか、それは良かった。

関西は白味噌だからな、

なかなか面白いだろう?

まあどんな食べ物でも、

これだけの仲間で食べたら最高に美味しく感じられるなあ」


天翔彩も美味しそうに餅を頬張っている。

鬼たちはもう餅をそのまま醤油につけて食べ始めていた。


二人で作ったおせちも大好評で、

どんどんとなくなっていった。

三が日でゆっくり食べるはずだったおせちは、

あっという間になくなってしまった。


「寮長これ知ってたから、

あんなに量作ったんですね」


「いやいや、ほんまに別のとこに持ってくつもりやったんやで。

まあ、もう全部なくなってしもうたがな。

余るよりはええやんか。

こんだけ綺麗に食べてもろうたら、本望やろ」


緑箋もそう思った。

楽しい正月になったなあと嬉しく思っていた。

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