第174話 初日の出
酒宴は終わらず朝まで続いている。
空も白み始めた。
せっかくだからと寮の屋上へ登る。
緑箋は天狗に連れてってもらった。
空は雲一つない快晴である。
この辺りでは七時過ぎに初日の出が登る。
七時と言えばもう朝である。
みんなも起き始める時刻だが、
今日の白龍寮の面々は夜通し大騒ぎしている後である。
どことなく初日の出よりも疲れが見えてきている気がする。
そんなことを思っていると、
天翔彩先生と遼香が緑箋の横にやってきた。
「まさかこんな形で初日の出を見ることになるなんてね」
「懐かしいな、翠夢と初日の出を見たこともあったな」
「そうだね。あの時は二人とも今みたいになるなんて思っても見なかったけど、
今こうしてまた遼香と初日の出が見られて、
なんだか嬉しい。」
「奇遇だな、翠夢。
私も同じこと思ってたよ。
なあ、緑箋君。君もそう思うだろう」
遼香は豪快に笑った。
緑箋は違う意味で嬉しいとは思っていた。
大嶽丸と酒呑童子と牛鬼の鬼同士もなかなかどっぷり飲み明かしたようで、
前よりも仲が良くなっている気がした。
鬼たちもこっちへやってきた。
誰からともなく、楽しい、愉快じゃと笑い合っている。
初日の出よりも酒かと思っていたが、
意外とみんなこういう儀式的なことも大切にしているようである。
いつの間にか玉藻前は天翔彩と遼香と楽しげに話をしている。
日本三大妖怪が揃っている。
恐ろしい光景だが、
どこか嬉しい光景でもあった。
そんなふうに眺めていると、
守熊田が緑箋の隣にやってきた。
「ほら、もう出てくんで」
緑箋が守熊田の指さす方を見つめると、
山の上から太陽の輝きが増してきたのが見えてきた。
「眩しい」
緑箋は当たり前のことを呟いた。
太陽は眩しい。
普通には見ていられないほどの輝きである。
緑箋はおそらく初めて初日の出を見た。
正月に何かをするなんてこともなかったし、
ましてや初日の出を見ようと思ったこともなかった。
そもそもこんなに眩しい太陽を見ようと思ったことがなかったのだ。
あまりにも明るすぎる光は、
自分を照らしてくれるというよりも、
自分の影をより濃くしてしまう気がしていた。
自分が恥ずかしい存在だと気づかせてしまうのだ。
しかし今この肌を突き刺すような寒さの中、
寮の屋上で見る太陽の輝きはただ眩しいだけではなかった。
照らされる日の暖かさもしっかりと感じさせてくれていた。
初日の出に照らされて光に包まれながら、
緑箋はみんなで初日の出が見られたことを本当に嬉しく思っていた。
遼香が隣にやってきた。
「ほら見てみな緑箋君。
龗も喜んでるじゃないか」
龗が太陽に目掛けて飛んでいる。
初日の出に龍が飛んでいる。
瑞兆である。
こんなにめでたい事はない。
「こりゃ今年もいい年になりそうだなあ」
遼香は持っていた壺から一口ぐびっと飲んだ。
「いやーほんとに最高だな。
ねえ先輩」
「ほんまやな」
守熊田は一言だけ告げて、
眩しそうに初日の出を眺めていた。
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