第173話 新年

遠くから除夜の鐘の音が聞こえてきた。

年明けももう少しである。

人も鬼も天狗も狐も龍も関係なしである。

今ここにいるものたちはみんな仲間だった。

緑箋の歩んできた道が、

今ここで一度繋がった。

日本の最高魔力がここに集まっている奇跡、

これは奇跡であり、

そして必然だったのかもしれない。

緑箋がこの世界に招かれた理由がここにあったのかもしれないのだが、

それに緑箋が気がつくのはもう少し先のことである。

今はただみんなの集まりが楽しく嬉しかった。


さあ、そろそろ時間である。


「ほら、みんな酒を持て!飲み物を持て!」


遼香の問いかけにみんなが答える。

開けるぞ開けるぞという声や、

さあ準備しろという声が上がる。


「なぜ遼香が音頭を取っているのかしら?」


玉藻前が不満そうに聞く。


「そりゃこの中で一番偉いのが私だからだよ」


それはその通りである。

日本で一番偉い人の一人が大晦日に魔法学校の寮にいるのかは、

皆目持ってわからないことしかないのだが。

だがもし闘いになったとしても、

遼香の実力なら全て倒せてしまうのかもしれない。


「とまあ言いたいところだけど、

確かに玉藻前の言う通りだな。

今日音頭を取るのは私じゃあないな」


「そうですよ寮長、この寮の責任者は寮長なんですから」


緑箋が寮長に話を向ける。


「何を言っとるんや緑箋!

今日の主役はお前や、緑箋!

この面々が集まったのは、緑箋がおったからやないか!」


守熊田の一言に、

緑箋に一斉に視線が集まった。

緑箋は流石に人前に立つのは苦手だが、

もう残り時間も一分を切っており、

もうグダグタ言っている時間がなくなってきていた。


「あーわかりました。

もう時間がありません!

さあみなさん飲み物を持ってください。

残り時間がもう二十秒を切りました!

さあ行きますよ。

十秒からみんなで数えていきましょう!」


十!

九!

八!

七!

六!

五!


みんなの声がどんどん大きくなる。


四!

三!

二!

一!


「新年明けましておめでとうございます!」


おめでとう!おめでとう!と周りで盛り上がりながら、

みんな一斉に乾杯をして飲み物を飲み干していく

緑箋の周りは妖怪たちで囲まれて、

乾杯を繰り返していく。

酒呑童子と大嶽丸は酒の飲み比べをしているようで、

牛鬼が審判のようなことをしている。

もう鬼たちは樽ごと酒をかっくらっている。


遼香と守熊田は上機嫌でいい感じに酔っ払っている。

天翔彩と玉藻前はどうやら何か真剣に語り合っているようだ。

酒は進んでいるが顔色ひとつ変わっていない。

相当強いのだろう。


天狗や土蜘蛛たちはみんなが持ってきたお土産に舌鼓を打ち、

酒と共に楽しんでいる。


すると天狗たちが笛や鼓を取り出した。

鬼たちは太鼓を叩き、

牛鬼は尺八を吹き出した。

玉藻前は琵琶を取り出し、

女官は琴を弾き始め、

天翔彩は三味線を引き出した。


そしてなんと守熊田はギターを取り出し、

遼香はピアノを弾き始めた。


もうどこの音楽かわからないような大合奏が始まった。

しかしこのごった煮のような音楽の共演がとても心地よく、

正月の雰囲気によく合っていた。


楽器ができないものたちは手拍子や踊りで一緒に合わせ、

もう二度とないかもしれない音楽を楽しんだ。


やっぱりこんなに楽しいことは緑箋は初めてだった。

そして新年一発目にして、

こんなに楽しいことが起きてしまったら、

もうこの一年は最高の年になってしまうと確信してしまった。


宴は夜通し続いた。

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