第7話 部屋の外へ

「さて、お互いの紹介も終わったし、

寮に行こうかな。

緑箋君。

この本は持っていくかい?」


天翔彩先生は緑箋に問いかけた。


「できればお貸しいただければありがたいんですが」


「まあ中等部で読む人もいないから、

持ってってもらって結構だよ」


「ありがとうございます」


「じゃあその本を持って、ついてきてくれ」


三人は部屋を出る。

扉には医療部と書いてあった。

緑箋は医務室ではないのか?と思ったが、

口に出すのはやめた。


廊下を歩いていくと、

階段があろう場所が吹き抜けになっていて、

棒が床から天井まで並んで伸びていた。


「緑箋君はまだ無理かもしれないな」


先生が手をかざすと棒に円形の床が現れた。


「ここは下り専用の移動機だ。乗ってみなさい」


三人が乗り込むと、スッと下に降りていった。


「普段は棒を触って降りていくんだ。

魔法の練習にもなるからね

でも体調が悪かったり、

使いすぎると魔力切れになったりもするから、

こういう床も出るよになっているんだよ」


「そうなんですね」


緑箋は本当に魔法の世界に迷い込んだことを初めて実感した。

5階あたりから一番下の階まで移動した。


「じゃあとりあえず寮まで行こう。

緑箋君に簡単に説明しておくと、

今いるところの3階と4階が中等部、

1階と2階は初等部になっている。

5階から上は色々だね。

各種教室とか研究室とか部室とか色々あるよ。

まあこの辺りはおいおい知っていくと思うから。

ともかく来週からここに通う、

君たちの学校ということだね」


「楽しみやな緑箋君」


咲耶は笑顔で話しかけてくれる。

三人は話しながら校舎から出た。


「本当はちょっと散歩でもしながらって行きたいんだが、

ちょっと色々やらなきゃいけないこともあるから、

転移ゲートでサクッと移動してもいいかね?」


咲耶は先生の腕を絡ませて不満そうな顔をしているが、

仕方がないといったリアクションをしてみせた。

小さな公衆トイレくらいの大きさの建物の中に入る。


「転移魔法っていうのは結構めんどくさくてね。

実際にできる人もいるんだけれど、

あまりポピュラーな魔法じゃないんだ。

どこを座標に置くかっていうのを考えたらキリがないし、

事故も起こるからね。

まあだから転移装置を置いて、

その場所に移動するということはできるようにしたんだ。

ということで世界中転移装置で移動できるかといえば、

できるんだが、

そうすると面倒なことも起きるのでね。

一応、転移装置が使える人も決められているし、

移動場所も決められた場所に限られている。

この転移装置では学校内の施設に移動できることになっている」


先生はスクリーンを呼び出して、

地図から移動場所を選択しているようだ。


「こういうふうに選択してOKを押せば移動できる。

緑箋君も咲耶ちゃんももう認証されてるね」


三人の顔がスクリーンに映し出されて、

OKという文字がついている。


「じゃあ移動しよう」


先生がOKを押すと、

寮に移動しますというアナウンスが流れた後、

スクリーンに移動完了という文字が映し出された。


「もう、移動したんですか?」


緑箋は何も感じなかったが、移動したらしい。


「そうだよ」


二人にとっては当たり前なのかもしれないが、

緑箋はなんの力感もないことにびっくりしている。

しかし外に出ると全く違う光景が広がっていた。


鬱蒼とした森の中に、

真っ白な木造と思われる建物が立っていた。

緑箋があっけに取られていると、

咲耶が嬉しそうに話し出した。


「これが当学校の自慢の寮、白龍寮はくりゅうりょうだよ!」


なぜか咲耶は誇らしげにしている。


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