第8話 寮の中へ
咲耶が誇らしげに話すのがもっともだというように、
雪のような真っ白な外観は、
優雅とも言えるほど荘厳な雰囲気を漂わせていた。
その建物の中央には立派な扉が鎮座し、
その左右には整然と窓が並んでいた。
「さあ、入ろう」
天翔彩先生が大きな扉に手をかざすと、
人の二倍はありそうな大きな扉が音も立てずに、
左右に分かれて開いていく。
「今、先生の魔力でこの大きな扉を開けたんですか?」
緑箋が疑問をぶつける。
「いや手をかざせば開くよ」
「自動扉やん?初めてみたん?」
咲耶が不思議そうな顔で質問してきた。
正確に言えば緑箋も自動ドアのことは知っているが、
この世界でも自動ドアがあるとは思っていなかった。
どこか古びた世界の技術を下に見ていたところがあったのかもしれない。
「いや、こんな大きいのは初めて見たから」
緑箋は誤魔化して話を繕う。
「そうなんやな、確かに大きな扉やからなあ。この扉が開くところ、結構好きやねん」
扉を通り過ぎると、
迎賓のエントランスが広がっていた。
まるで王宮のような巨大な部屋で、
荘厳な雰囲気がただようその中央には、
立派な魔術師のような誰かの石像建っており、
その左右に幾つかの移動用の棒が伸びている。
高い天井が空間を支配し、
天窓から光が降り注いでいる。
「いやこれはすごいな」
緑箋が感嘆の声をあげる。
「あの石像は日本の魔法の礎を作った方、
そして魔王と戦って平和をもたらしてくれた方の一人、
大陰陽師晴明様だよ。
この辺りのこともおいおい勉強していくことになるとは思うから、
今はこの程度の理解でいいよ。
さあ、部屋に案内しないとね」
「そういえば、咲耶さん。荷物があるとか言っていましたが。
荷物は大丈夫なんですか?」
「ああ、多分部屋に運んでくれたんとちゃうかな」
そんな話をしていると、エントランスの奥から大きな熊が現れた。
「天翔彩先生、わざわざご足労いただいてありがとうございます」
緑箋は人の言葉を話す熊?
と驚いたが、
よく見ると大男なだけだった。
寮の扉はこの熊に合わせて作られたのかと思うほどだったが。
「いやいや、まもりくまださん、ちょうどよかった。
この二人がちょうど今日から入寮することになった、
薬鈴木君と焔佐藤さんです。
焔佐藤さんのことは知ってるね」
「はいはい、聴いてますよ。
咲耶さんも入寮することになったんやねえ。
よろしくな」
「はい!お世話になります!」
咲耶の元気な声は周りをも元気にしてくれる。
「それから薬鈴木君やったね。ここの寮長をしてる、まもりくまだです。
守備の守に動物の熊に田んぼの田で、
守熊田と言います。
この寮の中では私が責任者やから、
わからないことがあったらなんでも聴いてな。
というかわからないことばっかりだと思うから、
遠慮したらあかんで」
守熊田は渋い声だが、
厳しさの中に優しさのある心地のいい声の持ち主だった。
「ありがとうございます。
お世話になります」
緑箋はしっかり頭を下げた。
「よし、じゃああとは守熊田さんにお任せするとして、
私は帰ることにするよ」
「はい、ありがとうございました」
緑箋と咲耶は声を揃えて感謝を伝えた。
「守熊田さん、あとはよろしくお願いします」
「はい、お手数おかけしました。
話も聞いたんで大丈夫ですんで、安心してください」
先生と寮長は目配せをした。
どうやら緑箋のことについて話が通っているらしい。
緑箋にとってもありがたいことである。
「ああ、そうそう、緑箋君。
端末が部屋にあるから、
そこから私に連絡が取れるようにしてもらっている。
それと乗りかかった船ということもあるので、
この一週間時間がある時に、
基本的な魔法の訓練も行っておいた方がいいと思うんだが、
どうするかね?」
「それは願ったり叶ったりで、
ぜひお願いしたいんですが、
大丈夫なんでしょうか?」
「ふふふ、そこは私も教育者だからね。
安心して君は心配しないで、
生徒の悩みを解決するのも仕事のうちだよ。
じゃあ早速明日から始めようか。
初めての最初の最初が一番肝心だから、
ここだけは人に見てもらった方がいいと思うんだよ。
コツがわかればあとは自主練でもなんとかなるとは思うよ」
「わかりました。
よろしくお願いします。
何から何までありがとうございます」
緑箋が恐縮しながら感謝していると、
緑箋と先生の間に咲耶が割り込んだ。
「てんちゃん!
明日は私もいくから!」
咲耶は大きな声で宣言した。
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