第6話 スキル?
「咲耶ちゃん、入寮は入学式の三日前からじゃなかった?」
抱きつかれたまま天翔彩先生は質問する。
「うんそうなんやけど、
やることもないから来てもうてん。
一応許可は取ってあるから安心してな」
「ああ、そうなのね。
まあ許可があるんだったらいいんだけど。
荷物は後で送ってくるの?」
「いや、もう荷物は寮の前に送ってもろてんねん」
「あらら、じゃあ寮の手続きもしないといけないね。
まあちょうどいいか。
緑箋君」
天翔彩は咲耶と呼ばれる生徒に抱きつかれたまま、
緑箋の方に向き直す。
緑箋は急に名前を呼ばれてびっくりした。二人の調子のいい会話に聞き惚れてしまっていたのだ。自分がそこに加わるとは思ってもいなかった。
「ちょうどいいから緑箋にも寮を紹介しておこうと思うんだが、
どうする?」
緑箋に選択権はない。
基本的に体も万全な状態になっていると思われる。
いつまでもここで休むわけにもいかないし、
少しこの世界のことを知りたいと思っていたし、
この学校のことも知りたいと思っていたので、
緑箋にとってもありがたい申し出だった。
「もう体も大丈夫だと思うので、ぜひお願いします」
「そうか、じゃあそうしてもらおうかな。
今緑箋君の手続きも終わったし、
寮の手配も終わっているから、
二人とも寮に行ってもらおうかな」
緑箋が立ちあがろうとしたところで、
天翔彩は気が付いたように話し出した。
「ああ、その前にお互いを紹介しておこう。
こちらは薬鈴木緑箋君。
でこちらは
咲耶はまだ天翔彩先生に抱きついたまま、
片目で合図した。
「君たちは来週からこの魔法学校の中等部に入学する、
まあ同級生ってことになるね。
同じ寮で暮らす仲間にもなる。
咲耶ちゃんは元々この辺りの出身なんだが、
ご両親が転属になるから、
咲耶ちゃんだけこっちに残る形になったんだよね」
「そうなの、だから私も寮生になるってわけ。
よろしくね緑箋君。
新しい友達ができて嬉しいわ」
咲耶は流石に先生から離れ、
手を出してくる。
この世界でも握手は挨拶なのだろうか。
緑箋は天翔彩先生を見るが、
先生も軽く頷いているので多分大丈夫だろう。
緑箋も手を出して握手しようと手が触れた。
咲耶はあっと叫ぶ。
緑箋はびっくりして手を離した。
「すいません。大丈夫ですか?
何か痛かったりしましたか?」
「いやいや、そうじゃないねん。
ちょっとなんかすごいビジョンが見えた気がして」
「ビジョン?」
天翔彩先生がその疑問と受け取る。
「咲耶ちゃんはたまにビジョンが見えることがあるんだよ。
まあ未来のことなのかな。
いつでも見えるわけじゃないみたいだけど、
人に触れると天啓のように何か見えることがあるんだ。
巫女のスキル持ちだからかもしれないね」
「巫女のスキルですか?」
「ああ、緑箋君はまだわからないかもしれないね。
一応それぞれにはスキルと呼ばれる特別な力が備わっているんだよ。
まあこれは訓練次第で変更できたりもするし、
成長とともに変わったりもするんだけど、
生まれ持った才能みたいなもんだね」
「なるほど。
ってことは僕にも何かスキルがあるんですか?」
「そういうことになるね」
ビジョンが見えて驚いていた昨夜も気分が回復したようで、
話に割り込んできた。
「緑箋君は自分のスキル知らないの?」
ああー。天翔彩先生は二人を交互に見返している。
「咲耶ちゃん。
緑箋君は家庭の事情で中等部から学校に通うことになったんだよ。
だから魔法のこととかあまり知らないんだ。
もしよかったら緑箋君の力になってくれ」
「ああ、そうなんや。
ごめんな、緑箋君。
知らんかったとはいえ、ちょっとずけずけ入りすぎたかも」
「いやいいんですよ。
全然気にしてませんし。
別に隠すことでもないですから。
咲耶さんも気にしないでいてくれた方が助かります」
緑箋は先生と目配せをして理解した。
どうやら異世界転生の話はあまり公にしない方がいい話のようだ。
咲耶の様子から見ると、
中等部から通うという話もなくはなさそうな話で、
この世界ではそういう事情を抱えている人も多くいるのかもしれない。
「緑箋君、いいやつやな!
よかった!いい友達になれそうやね。
わからないことがあったらうちが教えるから、
なんでも聞いてな!」
咲耶は笑顔を取り戻していた。
緑箋はこの底抜けに明るい同級生に少し救われた気になっていた。
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