第5話 初めての同級生(友達?)
扉が開いた先には女生徒が立っていた。
ベッドで本を読んでいる緑箋を見かけると話しかけてきた。
「あのすみません。天翔彩先生はいらっしゃいますか?」
「先ほど出て行かれましたよ」
生徒はそうか困ったなあという表情をしている。
「あのー、どこへ行ったとか、いつ頃帰ってくるとか、
そういうお話はされていましたでしょうか?」
「ええと、僕の関係の書類を作るとか出すとか行って出ていかれました。
また部屋に帰って来るとはいっていましたが、
どこへ行っていつ帰ってくるかはちょっとわかりません」
「そうですかー」
生徒はもっと困ったなあという顔をしている。
緑箋に困った顔を向けられてもどうしようもない。
そもそも緑箋はこの世界のことを知らない。
考えてみれば今いるところが魔法学校ということはわかっているのだが、
ここがなんの部屋なのかもよくわかっていないのだ。
「あのー失礼ですが、どこかお体の具合が悪いのですか?」
確かに緑箋はベッドで寝ているのだからそう見えても仕方がない。
最初は体は動かなかったのだが、
今は魔法が効いたためか特に体の問題はない。
なので具合が悪いわけでもないのだが、
その辺りの話をどこまでしたらいいのかもわからないので、
ええっととかむーとか曖昧な音を口から出していると、
生徒は怪訝な顔をして緑箋を見つめていた。
緑箋も流石にまずいと思ったので簡単に答えることにした。
「ちょっと怪我をしたのですが、
天翔彩先生に治してもらって、
少しここで休んでいるんです。
今はもう特に問題はないんですが、
念の為ここで休んでいて、
今は先生の帰りを待っているところです」
「そうなんですね。
先生が帰ってくるまで、
差し支えなかったら、
ここで待たせていただいてもよろしいでしょうか?」
緑箋は正直差し支えがありまくりなのだが、
追い出す権限は全く持ってないので、
快い振りをしてもちろんですと答えた。
生徒は空いている椅子に腰をかけると、
なぜか緑箋に話しかけてくる。
「あのーあなたはこちらの生徒さんなんですか?」
暇を持て余すと、緑箋でも話し相手になって欲しくなるのだろうか。
姿形はおっさんではないということもあるのかもしれない。
緑箋もなぜかこの世界では気兼ねなく話せるようになっている。
考えてみれば天翔彩先生とも普通に会話していたなと思い出した。
「いや、僕は今度この魔法学校の中等部に入学する生徒ですよ。
今日はちょっとことで休んでますけど。
あと数日後にここの生徒になる予定みたいです」
みたいという語尾に生徒は少し引っかかったようだが、
生徒は驚いたように話を続けた。
「そうなんや!
私も来週入学すんねん!
なんや同級生やんな。
新しい友達に入学する前に会えるなんてめっちゃ嬉しい」
どうもこの生徒は距離感が近い。
いつの間にか敬語がなくなっている。
そしてイントネーションはずっと関西弁だ。
なんだか懐かしい気がしていたのは、
この関西弁だったからかもしれない。
この距離感の近さは関西独特のものなのか、
もしかしたらこの世界ではこれが普通なのかわからないが、
もう友達だと思っているとは驚きだ。
というか緑箋には前の世界から通じて、
初めての友達が今できたことになる。
そんな緑箋の複雑な思いを無視して生徒は喋り続ける。
「なんや珍しいカッコしてるからちょっと年上かと思ったんやけど、
同い年なんか。
私は、ほんとは入学式に来る予定やったんや。
でもちょっと先生に会いたくなって予定を早めて今日来てみたんやけど、
先生がおらへんかったからどうしようかと思っててん。
でも君がいてくれてよかったわ。
先生と会われへんかったら、今日泊まるとこないしな」
この生徒は話が止まらないタイプらしい。
とはいえ緑箋の会話能力を気にしないで済むので、
緑箋は少し安心している。
ところどころあーとかほーとか相槌風の音を発しているだけで良い。
と思っていたら質問されてしまった。
「ところで、君、名前は何ていうん?」
「薬鈴木緑箋です」
簡潔に答えた。
「結構かっこいい名前やなあ」
何に関心しているのかわからないが、
生徒は一人頷いている。
「私は……」
と生徒が何か言いかけた時、
またガチャリと扉が開いた。
「お待たせお待たせ」
と言いながら天翔彩先生が部屋に入ってくると、
生徒の顔を見つけて驚いた表情を浮かべた。
「あら、咲耶ちゃんじゃない、どうしたの?」
「てんちゃん!会いたくなったからもう来ちゃった!」
咲耶は天翔彩先生に飛びついた。
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