第3話 入国、入学手続き

「さてそうと決まったら手続きを進めないと」


天翔彩先生はそう言って机に向かい出した。

机にはスクリーンのようなものが浮かび、、

それに向かって何か文字を入力しているようだ。


「ええと、もう一度名前を言ってくれるかな?」


薬鈴木緑箋くすりすずきりょくせんですと名乗ると、

漢字はあるかと聞いてきたので、

漢字も伝えた。

一応緑箋の名前の漢字もあるようなので

その辺りは共通しているようだ。


「ちょっとこっちを向いてくれるかな?」


先生は緑箋を見つめながら、

指で四角を広げるようなポーズを取る。

どうやら写真を撮っているようだ。


「一応データベースで確認してみたが、

緑箋君はやっぱり登録されていないみたいだなあ。

一応卒業まではこの学校の監視下に置かれることになるけど、

それでもいいかな?」


「他に行くあてもありませんし、

この世界のことを知るにもいいと思うので、

私にとってもぜひお願いしたいくらいです」


「そうかね。

じゃあこの方向で登録していくことにしよう。

まあこの辺りの手続きは後でやっておくことにするよ」


「あの、今のは私の顔を写真に撮ったんですかね?」


「そうだが?」


「あの、見せてもらってもいいですか?」


「そうか、自分の顔をまだ見ていないんだね。

これが君の今の姿だよ」


先生は画面をこちらに向けてくれた。

そこには確かに中学生くらいのガキが写っていた。

しかしその顔は以前の緑箋の顔ではなかった。

中肉中背のなんの変哲もない少年の顔だった。

一つ確実に違うのは、メガネをかけていないことだった。

そして短髪の髪の毛が緑色だったことだった。


「どうだね?自分の顔は?」


「顔は見たこともない顔でした。

でもそれよりも髪の毛が綺麗な緑色なことにびっくりしました」


「緑箋君の名前に合わせたのかもしれないな」


先生は笑った。


「珍しい色ではあるが、この世界ではいないこともないよ。

他にもいろんな髪色の人がいるよ。

私の黒髪も珍しいほうかもしれないね」


緑箋はそんなものなのかと思っている。

先生は続ける。


「手続きが終わったら寮を紹介しようと思うけれど、

まだ本調子でもないだろうから、

今日はここで休んでおくといい。

学校が始まれば、また詳しい説明もあると思うけれど、

この学校のこととか、この世界のこととか、

簡単な説明がこの本に書いてあるから、

今日はこれを読んでおくといい。」


先生は本を渡してくれた。

緑箋はパラパラと本をめくると、

確かに日本語で書いてあるので緑箋にも読める本だった。

文語調で書いているようではあるが、

まあ読めることは読める。

もちろん意味が違う言葉もあるかもしれないが、

それはそれとして、概要だけでも掴めればいい。


「本当に読めますね。ありがとうございます。助かります」


「デバイスがあればもっと簡単なんだけど、

まあそれは入学してからになるだろうね」


「あのーそのデバイスというのは、今使っていたものですか?」


「うん、これはもっと性能がいいものになるけれど、

まあ学生に渡されるものでも十分使えると思うよ」


「それはどこかと繋がって情報をやり取りできるものなんですか?」


「そうだね。君の世界にもあったのかな?

元々我々は念話とかテレパシーというもので、

遠くの人間とも話ができたんだけど、

意外と安定させるのは難しくてね。

そもそもさすがに見えない距離まで行くと、

余程の達人でもないと無理だったんだが、

そこをデバイスの力を利用することで可能にしたんだね」


「なるほど。我々の世界でもそうですね、

線で繋いで、さらに空中にエネルギーを飛ばして、

色々な情報を送ったりしていました」


「そうなんだね。この世界では全て魔力で行われているけれど、

その力を増幅するのがこのデバイスになるかな。

まあそういうことで、ちょっと私は席を外すよ。

手続きも進めておくから安心してくれ。

他にも役に立ちそうな本を置いておくから、

これは勝手に読んでもらっていいよ」


先生はいくつか見繕ってテーブルに置いてくれた。


「じゃあまた後で様子を見にくるから、

とりあえず今日はここで安静にしておくといい」


「何から何まで、ありがとうございます」


緑箋は頭を下げると、

教師っていうのはそういうもんさ、と手を挙げて、

天翔彩は部屋を後にした。


緑箋は一人残された部屋の中から、

大阪城を眺めている。

似たところもあるけれど、

全然違う世界に放り出されて、

緑箋は途方に暮れていた。

以前なら。

しかしなぜか緑箋はとても前向きに捉えていた。

それは天翔彩の泰然自若とした振る舞いのおかげだったのかもしれない。

すんなりこの世界に受け入れられたことが、

緑箋自信も受け入れられたような気持ちになっていたからかもしれない。

人の出会いで何かが変わることもある。

緑箋は感謝していた。


とはいえ、何もわからないことだらけのこの世界。

緑箋は本を手に取って、この世界のことを知る冒険に出ることにした。





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